超高齢社会へと突入しようとしている日本においてアルツハイマー病の罹患者は今後増加すると考えられます。
しかしながら、皆さんも御存知のようにアルツハイマー病の薬としては症状を緩和するものはありますが、根本的に治療する薬はいまだ存在しておりません。
今回は、近年の研究において見いだされてきたアルツハイマー病の根治療法薬の候補について紹介したいと思います。
アルツハイマー病のメカニズムとは
体内で様々な機能を発揮したり、身体を構成したりするのはタンパク質です。
筋肉や臓器はもちろん、消化酵素やホルモンなどもタンパク質です。
タンパク質は規則的な立体構造をとることで多種多様な機能を発揮するようになっています。
たとえて言えば、糸が規則的に絡み合うというイメージです。
しかしながら、糸と同様、意図しない絡まり方をしてしまうことで、変な構造をとってしまうことが多々あります。
裁縫の際に、糸が変に絡まってしまいほどくのに苦労したという経験をした方も多いと思いますが、体内では常にタンパク質はそのような危険にさらされている状態です。
異常な絡まり方をしたタンパク質が蓄積され身体に害を及ぼすこともあります。
アルツハイマー病はまさにこれが原因となった疾患です。
アミロイドβという変な絡まり方をしてしまった異常なタンパク質が脳内に蓄積されることで、発症すると考えられております。
他にも肺繊維症や白内障、また狂牛病といったものも異常な絡まり方をしたタンパク質が原因であると言われてます。
タンパク質の折りたたみ(フォールディング)がおかしくなって発症することから、これらを近年、「フォールディング病」と呼びます。
異常な絡まりをキレイにほどいてくれるHSP
タンパク質の変な絡まりをキレイにほどいてくれるものも、実は体内には存在します。
それがHSPと呼ばれるタンパク質です。
HSPは「分子シャペロン」とも呼ばれます。本来シャペロンとは、中世ヨーロッパでお嬢様のお世話をする係のことをさします。
世間知らずなお嬢様が社交界にデビューする際に、身の回りのお世話をする係の者がかならず同伴し、髪の毛や服が乱れる度にキレイに整えます。
HSPはまちがって絡み合ってしまったタンパク質を元にもどす分子ですので、分子シャペロンと呼ばれるようになりました。
HSPをたくさん増やすことができる物質がアルツハイマーに効く
変な絡み方をしたタンパク質が少量であればHSPが処理してくれますが、大量になってくるとHSPの処理能力を超えてしまい変な構造をもったタンパク質がたまっていき、フォールディング病発症へとつながってしまいます。
ということは、HSPをたくさん生体内で増やすことができる物質を体内に投与すれば、HSPの処理能力が上がり、フォールディング病治療へとつながるということになります。
HSPを増やすものとして報告されているものがあります。
それが胃薬のGGA(Geranyl Geranyl Acetone; 商品名セルベックスR)です。
このことを報告している論文も徐々に増えてきています。
胃薬が候補になってくるとは一見驚きだとは思いますが、新薬が生まれにくくなっている昨今では、既存の薬を別の疾患にも応用できるといった研究報告も増えてくると予想されます。
HSPを利用したフォオールディング病治療の研究が進めば、近い将来、アルツハイマーだけではなく、狂牛病や肺繊維症など現在は治療法が存在しない疾患を薬物療法によって根本的に治療できる日がくるかもしれません。
GGAは昔からよく処方される胃薬ですので、今回のお話を覚えておくといいかと思います。