性感染症が先進国の中でも、特に増加の一途をたどっている我が国においては、その対策に待ったなしの状態が続いています。ほとんどの性感染症はコンドームを使用することにより予防することができますが、薬剤師の中でも正しい知識を持っている方が少ないのが現状です。
しかし、薬剤師であれば医療人として、性の知識を正しく持たなければなりません。今回は日本で問題とされている性感染症と、その対策を正しく理解することを目指しましょう。
梅毒は近年注目すべき性感染症
性感染症にはHIV、性器クラミジア感染症、淋菌感染症、性器ヘルペスウイルス感染症など多様な種類がありますが、ここでは近年患者数が増加している梅毒について解説します。
2010年以降、梅毒の感染報告数は年々、全国的に増加しています。2015年第1週から第43週までの報告数は累計で2,037例。前年同時期の1.5倍となっています。
厚生労働省資料より
梅毒の症状などについてお伝えします。
【病期】
感染力のある一期、二期、感染力がなくなる晩期梅毒に分かれます。感染後3週頃に一期を迎え、亀頭などにしこりを形成後、腫瘍を形成します。感染後3ヵ月頃から二期に入り、全身に梅毒性バラ疹などが発生します。入院時などの検査で偶然発見される潜伏梅毒も多いです。
【感染経路】
主に性行為ですが、母子感染もあります。潜伏梅毒が多いため、母子感染が増える可能性があるというのも、注目すべき点です。
【予防】
性行為の初めからきちんと使用すれば、コンドームの使用が効果的です。ただし、口に梅毒の病変部分がある場合には、キスやオーラルセックスでも感染するので、この点は注意が必要です。
参考)IDWR 2015年第44号 注目すべき感染症「梅毒」
http://www.nih.go.jp/niid/ja/syphilis-m/syphilis-idwrc.html
性感染症予防にはコンドームの適切な使用が大切
日本においては性の話題はタブー視される風潮があり、正しい知識が一般の方へなかなか広まりません。しかし、梅毒や淋菌、HIVなどの性感染症はコンドームの適切な使用が予防に繋がります。
婦人科の処方箋を応需する薬局にお勤めの方でしたら、患者さんから、不妊治療中の薬の併用や産み分けの仕方など、性についての質問も多いことと思います。しかし大半の方は、患者さんから性についての問い合わせを受けた際に、なかなかうまく答えられないということが少なくないかもしれません。調剤薬局にお勤めの方のみならず、薬局やドラッグストアでコンドームの販売業務にあたっている薬剤師の方も含め、こういった問題には医療人の在り方が重要といえるでしょう。
コンドームの注意点―天然ゴムはアレルギー反応があることも?!
次に、薬剤師として知っておくべき、コンドームの注意点についてご紹介します。現在コンドームに使用されている素材は、ラテックス、ポリウレタン、イソプレンラバーの3種類です。
①ラテックスの特徴
ゴム手袋などにも使われる天然ゴムを加工した素材で、現在市販されているコンドームの90%は、このラテックスを使用して作られています。意外と多いラテックスアレルギーの人はこれを使用すると、アレルギー反応で大変なことになりかねません。
②ポリウレタンの特徴
ポリウレタンはプラスチックの一種で、ラテックスの数倍の強度があります。その強度と熱伝導率が高いことから、主に最近増えている薄型のものに使用されている素材です。
③イソプレンラバーの特徴
ポリイソプレンという新素材から作られています。こちらもポリウレタン同様に天然ゴムを使用していないため、ゴムアレルギーの心配はありません。ポリウレタンよりも柔軟性があります。
素材の大半が天然ゴムである以上、コンドームの販売に携わっている方は、販売する際にアレルギーに関する説明を加えることが、実は重要です。
この他、果物やチョコレートなどの匂いをつけたものも販売されるようになりましたが、アレルギーを持っている食品である場合は、匂いを嗅ぐのにも抵抗がある方もいると思います。今販売しようとしている方の体質や疾患の背景も大事になってきます。
性感染症患者さんへの注意点―服薬指導には十分な配慮を!
最後に、性感染症で治療を受けている方の服薬指導に関する注意点について補足します。性感染症などの患者さんの調剤業務にあたる場合には、特別な配慮が必要です。ほとんどの薬局では個室で投薬することはまずないと思います。患者さんの気持ちを考えて、他の患者さんに聞こえないような声で、そして具体的な症状や病名は出さないことが必要です。シンプルに「これはばい菌を殺す薬です。」などでいいでしょう。
性の話題への関心を高めていくために
こういった話題は避けがちですが、よく調べてみると、化学を得意とする薬剤師であれば当然知っておかないといけない点が多いことが分かります。
厚生労働省の性感染症のページでは、啓発ポスターなどもダウンロードすることができます。薬剤師の皆さんが先頭に立って、まずは性に関する意識を変えていくことが必要ではないでしょうか。ぜひ自分でも積極的に勉強してみてください。