長きにわたって続いてきたコロナ禍の中で、ウイルスワクチンの研究が進み、これまでは対処療法しかなかったウイルス感染症の一つであるRSウイルスに対するワクチンがついに登場しました。今回はこれについてまとめます。
RSウイルスってどのようなウイルス?
RSウイルスは日本名では「呼吸器合胞体ウイルス」と呼ばれ、呼吸器症状を起こすウイルスです。特に乳幼児に重篤な呼吸器症状を起こすことが多く、2〜3歳までにほとんどの子どもが感染し抗体を獲得します。ほとんどの場合、感染しても発熱、咳、鼻水などの風邪の症状だけで治りますが、まれに重症化し、最悪の場合には死に至ることもあります。日本での死亡例は少ないものの、特に未熟児・早産児、生まれつき呼吸器や心臓に持病のある赤ちゃん、免疫不全状態の赤ちゃん、ダウン症の赤ちゃんなど抵抗力が弱い赤ちゃんに感染した場合には重症化しやすく、このような赤ちゃんへのRSウイルス感染症予防注射(ウイルスに対する抗体であり、ワクチンではなく抗体医薬品です)は保険適用となっています。
60歳を超えた成人でも重症化しやすいという特徴があり、一度かかっても免疫が形成されにくく、生涯にわたって何度も感染することもあります。そのためワクチンの登場が心待ちにされてきました。
RSウイルスの感染メカニズムの研究によって分かったことは?
RSウイルスのワクチン開発は50年以上前から行われてきましたが、RSウイルスの感染メカニズムの一部が不明でなかなかうまくいきませんでした。最近の研究で、RSウイルスが感染する際に、ウイルス外殻のF蛋白質が重要であることがわかりました。
しかし、F蛋白質はウイルスと宿主細胞とが融合する前(pre-F)と後(post-F)で構造が異なることが判明したのです。加えて、ワクチンはウイルスと宿主細胞とが融合するのを防ぐものであるためターゲットとしてはpre-Fの方になりますが、このpre-Fはpost-Fの方へと安定的に変化してしまうため、pre-Fに対するワクチンを作るのはかなり困難ということも判明しました。
ところが2013年にアメリカの研究チームによって熱などの刺激に対して安定となるpre-Fを作り出せることが見出され、ここからワクチン開発が進んでいきました。
ついに登場したRSウイルスワクチン!
コロナ禍の中、イギリスのグラクソスミスクライン社、アメリカのファイザー社がワクチンを次々に出したのを皮切りに、現在でも多くの製薬企業が新たなワクチン研究しています。今後数年でさまざまなワクチンが登場することが予想されています。日本では、高齢者の患者さんが増えることが予想され、ワクチンの一部は既に小児にだけでなく、60歳以上の成人にも適用されています。今後未知のウイルスが登場しパンデミックが起こる可能性も考慮し、新しいワクチンの開発がスムーズになることは喜ばしいことかもしれません。ただし、新しいワクチンは副作用など不明な点もあるため今後の展開には注目が必要です。
ぜひ薬剤師としても今後の動向に注目してみてください。
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