がんや認知症患者の増加・コロナウイルスの影響で、近年多くの新薬がとても速いペースで登場するようになってきています。その半面、ゼロから新薬を作り出すのは予算や労力がかなりかかるため「ドラッグリポジショニング」が注目されています。今回はこれについて見ていきましょう。

そもそもドラッグリポジショニングとは?

ドラッグリポジショニングとは、「すでにヒトにおいて安全性や体内動態が確認されている既存薬から、新たな薬効を見出すことによって実用化につなげていこうという研究スタイル」のことです。
すでに世に出ていて使用されているという「市販実績」、ヒトにおいて安全性や体内動態が確認されている「確実性」、既存データがありこれらを活用できるという「低コスト性」などが利点です。
薬を作る側から見ると、新薬を創出するよりも予算も手間も少なくて済むため、着手しやすいというメリットがあります。このため、新薬が生まれにくくなっている昨今における救世主とも考えられています。実際に多くの製薬企業や研究者が、ドラッグリポジショニングに関しての研究開発を進めています。

一方、薬を使用する側から見ても、これらは大きなメリットといえます。新薬の使用にどことなく抵抗を感じる方でも、すでに使われている薬であれば、受け入れてくださる方もいます。そして国レベルで見ても、医療費抑制につながるため、大きなメリットがあるといえます。

ドラッグリポジショニングの基礎となるのは意外な概念

これまでの歴史を紐解いてみると、実はドラッグリポジショニングによって、成功してきた例はたくさんあります。この場合に重要となるのが、副作用」です。以前は副作用と聞くと、「発生する有害事象」のことを指しましたが、現在では、「有害事象を含めた本来期待される作用以外に発生する事象」のことを指すようになりました。この考え方こそがドラッグリポジショニングにとっては大事なのです。実際の過去の事例を振り返ってみると理解しやすいです。
例えば、「ミノキシジル」があります。元々は高血圧の治療薬として開発が進んでいましたが、治験中に発毛という予期せぬ副作用が起こったことを逆手に取り、発毛薬として市販されました。勃起不全治療薬「シルデナフィル」も、元々は狭心症治療薬として開発されていた中で、偶然起きた反応から作られた薬です。どちらも現在において、多くの男性にとって救世主ともいえる存在になっている薬です。

また、有名な解熱鎮痛薬であるアスピリン(アセチルサリチル酸)に関しても、製品化されてから抗血栓効果が確認されるようになり、心筋梗塞や狭心症の再発予防薬(低用量アスピリン)が生まれました。生活習慣病増加の中で、こちらも重要な薬の一つになっています。

新型コロナウイルスの薬誕生にもドラッグリポジショニングが!?

コロナ禍において、比較的早期に新型コロナウイルス用の薬が世に出てきましたが、これもドラッグリポジショニングのおかげという一面があります。
例えば、エボラ出血熱の治療薬として開発されてきた「レムデシビル」は、一本鎖RNAウイルスに対する効果(RNAポリメラーゼ阻害効果)が見られるもので、RNAウイルスに分類される新型コロナウイルスにも効果が認められたことから、新型コロナウイルス感染症治療薬として厚生労働省により特例承認されました。
このように、パンデミックの際にもドラッグリポジショニングは大きな貢献を果たしているといえます。

今後さらにドラッグリポジショニングが拡大していくための手法とは?

前述したように、これまでは薬が開発されていく中で、偶然発見された副作用を薬の作用として転換していく手法である「偶発的発見型」がメインパターンでした。しかし現在はゲノム解析技術などがさらに進歩し、より多くのゲノム情報をより速く解析できるようになりました。
そのため既存医薬品や開発医薬品の作用機序や標的分子を網羅的に解析することで新たな効果を発見していくという「戦略的導出型」が効率良く行えるようになってきました。今後はよりドラッグリポジショニングが進んでいくことが期待されています。
薬剤師としても、今後の展開をしっかりと注視したいものです。ぜひご自身でも動向把握をしてみてください。

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