薬剤師をしている中で妊婦の患者さんにお会いすることも少なくないと思います。妊娠中は体質が変わるため、さまざまなトラブルが起こることがあります。薬を飲みたいと希望する方もいらっしゃいますが、妊娠中に薬を飲んでいいか悩み、我慢したという声も聞きます。今回は妊娠中の薬の服用について復習していきましょう。

そもそも妊娠の時期の違いって?

まずは妊娠期間は、大きく分けて次のようになります(ただしずれることもあります)。
(1)妊娠4週未満
(2)妊娠4週~7週
(3)妊娠8週~15週
(4)妊娠16週~分娩
(5)授乳期(出産後ですが授乳期も大事になりますので言及します)

(1)妊娠4週未満では、まだ胎児の器官ができていないため、母体が飲んだ薬の影響が受精卵に出たとしても、着床しないまたは流産するか、影響が完全に打ち消され、そのまま順調に発育していくかのどちらかになります。ただし、長く母体にとどまるような薬に関してはもちろん注意が必要になります。
(2)妊娠4週~7週までは、胎児の器官が作られていて、薬による奇形が起こるという点では最も気をつけるべき時期になります。また、この時期では妊娠に気がつかないという方もいらっしゃるので、この点も注意する必要があります。
(3)妊娠8週~15週までは、器官形成は概ね終わっており、奇形の危険性は下がってはいるものの、まだ一部の器官形成が続いているため、安心というわけではありません。
(4)妊娠16週~分娩までは、奇形の危険性が低くなる半面、薬が胎盤を通して胎児に移行するため、胎児に発育異常などの問題が発生することがあるので注意が必要になります。
(5)授乳期は、薬が母乳を介して乳児に移行する危険性があるので、妊娠中同様に注意が必要になります。
大事なことは、妊娠しているかの把握、自分がどの時期なのかの理解することです。

心配しすぎる必要はない?

かなり心配している方もいらっしゃいますが、妊娠中に服用すると直ちに赤ちゃんに影響する薬は実はそんなに多くはないです。逆に、もともと持病がある方(例えば甲状腺に関する疾患がある方など)が、ずっと飲んでいた薬を辞めてしまうことで、体調を崩してしまい結果的に赤ちゃんの発育にも影響してしまうこともあります。

薬剤師としても、この点はしっかりと把握して、心配なら専門医への受診を勧めて、同じ薬効でより安全性の高い薬に代えてもらうようにするなどの指導をすることが大事になります。加えて、そもそも自然発生による奇形で生まれてくる確率は数%と考えられていますので、その点もきちんと説明して、専門医から薬を飲むように言われている場合には薬を飲んだ方が母体自体の健康増進につながることをきちんと説明し、決して自己判断で服薬を中止しないように指導することで、安心感形成への一助になるものと思います。

避けた方がいい具体的な薬とは?

先述したような事実があっても、妊娠中に避けるべき薬も確かに存在はしています。代表的なものとしては、抗がん剤、麻薬、抗凝固薬(ワーファリン)、ホルモン剤、ワクチン類、子宮収縮薬、ビタミンAなどです。もちろん、専門医の判断で使用されることはありますが、積極的にこれらの薬を使用することは避けるようにはなっています。これらの薬は、一般的に見ても副作用が出やすいものが並んでいます。

また、使用するのが慎重になるべき薬もあります。具体的には、降圧薬、抗けいれん薬、抗うつ薬、非ステロイド抗炎症薬(ただしアセトアミノフェンは除く)、利尿薬などです。これらに関しては、妊娠中に悩まされることが多い症状に使われるものばかりですが、専門医の指導のもとで経過観察をしっかりとしながら、服用することができる薬です。もちろん、本当に妊娠中に使用できるかどうかについては、添付文書や論文などで個別の薬ごとに毎回確認することが重要になります。

各地区薬剤師会の中には、妊娠や授乳中の薬のサポートに長けた薬剤師を育成しているという場合もありますので、しっかりと勉強したい場合、講習などを受けてみることをお勧めします。ぜひ未来の命を守れるプロを目指してください。

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