超高齢社会を迎えた日本において、様々ながんの患者が増加しています。近年、がんの画期的な新薬が続々と登場している中、「ジュセリ(成分名:ピミテスピブ)」と呼ばれる新しいメカニズムを利用した新薬が注目を集めています。今回はこの新薬の特徴について理解しましょう。
ジュセリの対象となるがんとは?
今回紹介するジュセリが対象とするがんは、「消化管間質腫瘍」と呼ばれるもので、英語名「Gastrointestinal Stromal Tumor」の略である「GIST」という名でよく呼ばれています。これは、消化管の壁に発生し、転移や再発を起こすがん(肉腫)の一種です。
日本においてGISTの年間罹患者数はおよそ1,500〜2,500人程度と考えられており、希少がんに分類されます。消化管のうち、胃と小腸で発生することが多く、大腸と食道ではほとんど発生しません。GISTは粘膜から発生する胃がんや大腸がんとは異なる性質をもちます。
希少がんという特性上、なかなか研究テーマとして選ばれづらく、特殊ながんともいえるGISTでしたが、その重要性が認知され始めてからは世界的規模で研究が行われるようになりました。その結果、がんの増殖や生存に関係するKIT遺伝子やPDGFRA遺伝子など、主にチロシンキナーゼと呼ばれるタンパク質を作り出す遺伝子群に変異が起こっていることがわかってきました。
ジュセリの分子メカニズムとは?
ジュセリはHSP90阻害薬に分類されます。HSPとは、「Heat Shock Protein」の略称であり、日本語に直すと、「熱ショックタンパク質」と呼ばれています。語尾の90はHSPが持つおおよその分子量を表しており、HSP自体には様々な分子量のものが存在しています。ジュセリはその中のHSP90をターゲットにします。
HSPは熱ストレスだけでなく、低酸素や低栄養などといった多くのストレスに反応して発現が増加し、細胞をストレスから守る働きを担います。正常細胞においては、ストレス軽減を担うものなのでむしろ良いものといえますが、がん細胞においては違います。HSP90は多くのがん細胞において発現が上昇し、活性も高い状態であるため、がんの生存にとても重要なものとなるのです。ジュセリはHSP90を阻害することで、前述したKITやPDGFRAなどのタンパク質を不安定化・減少させることができます。その結果、がんの増殖や生存に影響し、抗腫瘍効果を示すというメカニズムです。
これまでの多くの研究において、GISTを含むその他の多くのがん患者で、HSP90の発現が、がんの予後や進行具合などに関連している可能性が示されてきました(参考文献1)。
また、この度の承認に至った治験の第III相臨床試験においても、ジュセリが無増悪生存期間(Progression-Free Survival、略してPFS)を有意に延長し、有害事象については管理可能という結果となりました(参考文献2)。
つまり、抗腫瘍効果は認められるものの、副作用に関しては許容できるものであったということで、医薬品として使用することができるという結論に至ったのです。
これまではGISTに関わらず多くのがんにおいて、何かの治療後に増悪した場合には治療が困難になるケースが多かったという事実があります。よく医療ドラマなどで、主治医から「治療しましたが悪化したため、もう手のほどこしようがない」と告知される場面を見かけることも多かったのではないでしょうか。しかし、ジュセリの効能効果は「がん化学療法後に増悪した消化管間質腫瘍」となっており、これまでよりも治療の可能性が拡大する救世主という側面がジュセリにはあります。
今後このジュセリという新薬により、多くの患者さんが救われることが期待されます。ぜひ、ジュセリについてしっかりと覚えておいてください。
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