2020年という節目の年を迎えました。高齢化がさらに加速していくこともあり、今後もがん患者数は増えていくものと予想されています。それに伴い、がんの診断法や治療法も日進月歩です。近年はオプジーボのノーベル賞受賞もあり、免疫療法が日本でも広がってきています。今回は新しい免疫療法である光免疫療法について紹介したいと思います。

光免疫療法とはどんな治療法なのか?

この治療法は米国国立がん研究所の主任研究員である小林久隆氏により開発されました。そう、開発したのは日本人なのです。臨床試験も進み、有効性や安全性の面でも良好な報告がなされてきています。

仕組みとしては、まずがん細胞に存在する特定のタンパク質に結合する抗体を用意し、そこに非熱性赤色光と反応を起こす光感受性物質を付加した薬剤を静脈注射で体内に注入します。体内投与後に抗体ががん細胞に結合したら、光ファイバーをがん組織に到達させて非熱性赤色光を照射します。

これにより、光感受性物質が非熱性赤色光に反応して、風船がはじけて壊れるごとくがん細胞が破壊されます。もちろん、光感受性物質と非熱性赤色光との反応が起こらないがん細胞以外の正常細胞では細胞破壊は起こりません。

この治療法のすごいところはここからで、破壊されたがん細胞の破片が免疫細胞と出会うと抗原として認識され、残ったがん細胞に対する抗体が作られます。この抗体に対する新しいリンパ球ができることにより、破壊されずに残っている他のがん細胞への攻撃がさらに増強するというわけです。

これまでの治療法との違いは?

これまでも温熱や凍結を使った治療法は存在してきました。一見これらと似ていますが実は似て非なる特徴があります。温熱や凍結をほどこすとがん細胞は確かに死にますが、破壊後の破片であるタンパク質は変性してしまいます。

この破片では前述した免疫反応が正しく起こりにくく、残ったがんを破壊することが困難でした。実際に以前から、がん細胞を体外ですり潰し、その破片に反応させた免疫細胞を患者さんの体内に戻す療法は試されてきましたが、あまり劇的効果はありませんでした。

一方、光免疫療法により破壊された破片は変性されていない良質なタンパク質なので、免疫細胞による反応がより正しく行われ、残存したがん細胞への攻撃性はかなり強いものとなります。

問題点もまだある?

もちろん、光免疫療法が完璧という訳ではありません。動物実験の段階ですが、がん細胞を破壊するだけでは治らない場合もあることがわかりました。前述したように、がん細胞破壊後の破片に免疫細胞が反応することで抗体ができます。

この抗体産生に応答し、新しいリンパ球がつくり出される訳ですが、いくらリンパ球が増えても、がん細胞がリンパ球と結びつくとリンパ球の動きが封じてられてしまい、効果が出にくいのです。以前のコラム「がんは根治の時代へ?!がん免疫療法最前線」でも書きましたが、これを免疫チェックポイントと言います。

こういった症例には光免疫療法に加えて、免疫チェックポイント阻害薬のオプジーボなどを併用することで、改善が期待されます。今後の臨床試験に期待ですね。加えて、リンパ球ができてしまえば、全身に巡ることができ、転移したがん細胞などにも効果が期待されます。

今後の薬剤師との関わりとは

光免疫療法の治療薬は一種の抗体医薬ですので、まごうことなき医薬品です。つまりは今後臨床試験が完了し、臨床現場に出て来れば、それは薬剤師が管理すべきものとなることは必須です。その際にメカニズムや限界などを知らないでは済まされません。

前述したオプジーポとの併用の理由などもきちんと説明できることが求められます。逆に言うと、一番精通している人になれれば、存在感や信頼感は計り知れないと考えられます。最近では、がん治療法に関しては比較的早めに臨床現場に登場することが多いので、すぐに対応できるように今からでも少しずつ勉強してみてください。

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