微生物の働き、と聞くと、薬剤師の皆さんは何を思い浮かべますか?微生物は人にとって有益なものもいれば、悪さをするものもいます。良い微生物を増やすためにビオフェルミンなどの乳酸菌の整腸剤を調剤したかと思えば、悪い微生物を殺すために抗生剤を調剤することもあるかもしれません。微生物の最先端の話題に触れながら、その働きを考えてみましょう。
医療に有用な微生物について復習してみよう!!
世界初の抗生物質であるペニシリン。医療の世界を変えた発明の1つとして欠かせないものです。黄色ブドウ球菌を培養していた際にカビが混入し、なぜかその周りだけは菌がいないことから発見されたのは有名な話です。
一方で、あまり知られていませんが、多くの薬を産生しているスーパーな菌が存在しています。それは放線菌です。長年人類の脅威であった結核を、「死の病」から「治る病」に変えたストレプトマイシンは、1944年に土壌中の放線菌から見つかりました。この菌がすごいのは、その後様々な化合物が見つかり、それが多くの治療薬になっている点です。
例えば北里大学の大村博士がノーベル医学・生理学賞を受賞するきっかけになった、抗線虫薬のイベルメクチンの他、犬の寄生虫駆除に使われるミルベマイシン、農薬として使われているカスガマイシンが有名なところです。これらはすべて抗生剤の分類ですが、抗がん剤のブレオマイシン、免疫抑制剤のタクロリムス、さらにはブドウ糖産生を抑え血糖上昇を穏やかにするアカルボースまで、実は放線菌が作り出す化合物なのです。2015年に大村博士がノーベル賞を受賞したときのスピーチで、「すべて微生物がやっている仕事、私はその微生物の力を借りているだけ」と自身の研究を表現しましたが、まさに言いえて妙だと思います。
こんなにすごい、微生物医療応用の最先端!!
次に、最近医療に応用されている微生物の働きを紹介します。
細菌の中には、「磁性細菌」と呼ばれているものが発見されてきています。この細菌は鉄イオンを大量に取り込み、体内に小さな磁石の粒子(磁性粒子)を作り出すという、変わった性質を持っています。これを医療に応用しようという研究が活発になされているのです。
なお、「人工的に合成した磁性粒子」は、現在でも医療現場で使われています。例えば、あるタンパク質(A)を含めた多数のタンパク質(B、C、D、E、F)が混在している検体からAのみを取り出したいときには、Aにだけ結合する特異的な抗体を磁性粒子につけておき、検体と混ぜます。そうすると磁性粒子にくっついている抗体にはAのみが結合します。その後磁石を近づけると、磁性粒子が磁石に向かっていくわけですが、その際Aも一緒に回収できます。そして洗浄すると他のタンパク質は洗い流されますが、磁性粒子と結びついているAだけは磁石の部分に残ります。結果として確実に目的のAのみを回収できるわけです。
しかしながら、「人工的に合成した磁性粒子」で、目的の分子と結合するようにするためには、かなりの手間と特殊な加工が必要となり面倒です。一方、「磁性細菌」を使う場合には、遺伝子組み換え作業によって、比較的簡単に磁性粒子表面に望み通りの物質をくっつけることが可能です。
まだまだある微生物応用の可能性!!
医療器具などを作るのには金属類が必要ですが、特に銅は鉄や硫黄といった不純物がたくさん混じっている鉱石(黄銅鉱)から、純度よく取り出さないといけません。この純度の高い銅を取り出すときに、鉄や硫黄を酸化する細菌が使われています。
また、近年ではプラスチックを体内で作り出す細菌が見つかりました。これらの細菌が作り出すプラスチック(バイオプラスチック)は自然に分解され、有害物質も出ないので、環境に優しいとして注目されています。ただ、コストが石油由来のものよりもまだ高くなってしまうようです。こういったコストを下げるような研究もなされています。
微生物の働きは抗生剤による治療とどまらず、検査に活用されたり、金属を純度良く回収したり、エコなプラスチックを作ったりと多岐にわたります。今後も微生物が持つ可能性に注目したいですね。