超高齢社会に突入している日本はもちろんのこと、世界的に見ても罹患者数が増加している疾患の一つが認知症です。その中でもアルツハイマー型認知症が特に問題となっています。アルツハイマー型認知症の画期的な新薬として「レカネマブ(米国における商品名はレケンビ®)」が登場しました。薬剤師としても正確に理解しておきたいところです。今回はこの新薬について見ていきましょう。

まずはアルツハイマー型認知症について復習してみよう!

脳を含めた神経系を形成する神経細胞は、ほかの組織の細胞とは違う性質を持っています。そのため、莫大なお金や時間がかかるバイオ系の研究において神経系の研究は特に困難を極めるといわれています。
アルツハイマー型認知症の研究も以前よりは進んでいるものの、依然そのメカニズムには未知の部分が多くあり、古くから使われている薬は、軽度の段階で進行を止めるというものでした。
これまでの研究の結果、いくつかの説の中で一番有力視されているのは「脳内にアミロイドβが凝集・沈着することによって発生する」というものです。
もう少し詳しく説明すると、「無害である約40個のアミノ酸からなるペプチドのアミロイドβモノマーが分子間会合によりオリゴマー化(これをポリトフィブリルと呼ぶ)して、これが不溶性の線維状凝集体(これをアミロイド線維と呼ぶ)を形成することで脳に蓄積される」ということです。この反応が次から次へと広がっていくとさらに進行していくという特徴もあります。
つまり、このアミロイドβの凝集・沈着を防ぐことができれば、結果としてアルツハイマー型認知症を患わずに済むということになります。

レカネマブの特徴とは?

レカネマブは近年話題となっている抗体医薬に分類されます。動物モデルにおいてアミロイドβ沈着を抑制することが分かった抗体を、ヒト用に改良したものです。
前述したアミロイドβモノマーが会合してできたポリトフェイブリルと反応して分解してくれます。アミロイドβ沈着自体を抑えてくれるということは、まさにアルツハイマー型認知症の根治を目指せるものになります。
実はこれまでにも沈着したアミロイドβと反応する抗体医薬として「アデュカヌマブ」が存在していますが、メカニズムが少し違います。アデュカヌマブは蓄積されたアミロイドβ線維と反応する一方、今回のレカネマブはアミロイド線維の前段階の物質であるプロトフィブリルに反応します。
つまり、アデュカヌマブよりもレカネマブの方がさらに前段階で作用するということになります。すでに完成されたアミロイド線維よりもプロトフィブリルの方が除去しやすい可能性が高いという点でも、レカネマブの方がより根治療法用の薬としての意義が高いと考えられます。

今後の研究開発の焦点とは?

現時点では、レカネマブの投与は静脈点滴で行います。病院に行かなければ受けることができない治療法です。認知症患者は高齢者が大半であるため、この点が治療継続のデメリットと考えられます。
この問題点を解決しようと、皮下注射で投与できるように研究開発が進んでいます。順調に行けば数年以内に実現する可能性もあります。
もしこれが実現すれば、インスリンの自己注射のように家で患者やその家族によって比較的簡単に投与できるようになるため、大きな期待が寄せられています。
アルツハイマー型認知症については診断法だけでなく治療法に関してもどんどん進化しており、そのスピードも速くなっているのが現状です。
薬のプロとして、ぜひそのスピードについていける薬剤師になってください。

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