カーボンニュートラル、SDGs、地球温暖化防止などが叫ばれる中、CO2を出さない原子力発電の重要性が増してきています。原子力を活用しつつ、原子爆弾・原発事故の悲惨な歴史を繰り返さないという取り組みも行われています。そのような中、「小型原子炉(small modular reactor; SMR)」が注目されています。今回は小型原子炉と医療の未来について考えていきましょう。

そもそも小型原子炉とはどのようなもの?

小型原子炉とは、原子炉の中で出力が小さい(国際原子力機関の基準で30万キロワット以下)ものを指し、通常の原子炉の出力の半分以下となります。この小型原子炉が注目されている理由は、次のような特徴があります。

(1)冷却しやすい
(2)コストが安い
(3)核不拡散に貢献する
(4)持ち運びが楽
(5)既存の技術を応用できる

(1) 冷却しやすいというのは、メルトダウンを回避できるということです。福島第一原発事故の際に、想定外の大きな津波によって冷却装置が壊れてしまいメルトダウンを生じてしまいましたが、小型原子炉では冷却水を追加する必要がないため、非常時にも安心です。
(2) コストが安い理由は、工場で組み合わせて、現地でユニットを設置していく手法(専門的にはモジュール建築と言います)をとるからです。工期の短縮などのメリットがあります。
(3) 核不拡散に貢献するというのは、小型原子炉を別の場所に移動させたい場合に、小型原子炉を完全に解体してから運ぶことが可能です。そのため、原子炉自体を核兵器に転用することを防ぐことができます。
(4) 持ち運びが楽というのは、小型で持ち運びが非常に容易なので、離島にも持ち運びがしやすいという特徴があります。島国の日本にとっては本島からの電気の確保がかなりの負担になる場合があります。そのため、小型原子炉を離島に運んでしまえば、何十年は稼働できるので、とても便利です。
(5) 既存の技術を応用できるというのは、小型原子炉はそもそも原子炉なので、これまで蓄積されてきた原子炉に関する多くの知見をそのまま活かすことができます。新技術の開発となると、これまでの技術を大幅に変えないといけないことが多いですが、小型原子炉開発にはそれがありません。
このように多くのメリットがあります。

小型原子炉が注目されるようになった背景は?

今世界の原子力は、大きく二つに分断されています。1つ目は原発促進、2つ目は脱原発です。ドイツのように完全に原発依存から抜け出す国もありますが、多くの国では原発を採用しなければ電気が賄えない、という事情があります。日本もその一つで、資源が乏しい反面、原子力技術は世界でもトップレベルという背景もあります。世界的な潮流としては、「原発事故による放射性物質汚染という短期的なリスクよりも、CO2排出継続による地球温暖化が進行するという長期的なリスクの方が問題」です。小型原子炉の研究開発はまさに、この潮流の中で世界的に盛り上がりを見せています。

小型原子炉が描く未来の医療とは?

薬学生や薬剤師を含めて医療従事者にとって、一見小型原子炉とは無関係に思えるかもしれませんが、実はそうではありません。医療において、「放射性医薬品」が注目を集めていますが、例えばPET検査用の放射性医薬品に関しては、病院内にベビーサイクロトロンと呼ばれる小型の加速器を置きさえすれば、自前で製造可能になります。
その一方、内用療法用の放射性医薬品となると話が違ってきます。内用療法は放射性医学領域ではかなり将来性のある治療法として認知されており、診断と治療が同時に行えるというメリットがあります。ただし、この原料となる放射性物質は、これまで完全に輸入に頼っていました。近年、この原料を国内で作っていこうという流れが政府主導でできています。つまり、小型原子炉が実用化されれば、病院に留まらず、薬局においても放射性医薬品が製造可能となるのです。実際に、病院や薬局で使われる放射性医薬品に関しては、放射性物質という側面があるにも関わらず、放射性物質を規制する法律(放射性同位元素等規制法)の規制からは除外されています(ただし、薬機法や医療法などの規制は他の医薬品と同様に適用されています)。これは、薬剤師への国からのメッセージとも理解できます。小型原子炉の完全実用化がまもなく迫っている中、薬局薬剤師が関わる可能性はとても高いです。ただし、小型原子炉は放射性物質を内包したものであることは事実なので、放射性物質に関して知見がある薬剤師が今後さらに必要になると考えられます。放射性物質に関して知見がある薬剤師はかなり少ないため、一人でも多くの薬剤師が学ぶことを期待しています。
薬剤師の今後の研鑽としてもぜひ参考にしてください。

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