日本でも多くの患者さんが患っている高血圧。血圧をダイレクトに下げる効果のある薬剤は色々な種類が存在しますが、実は漢方薬の中にも高血圧に効果のあるものがいくつもあります。今回は高血圧に使われる漢方薬をみてみましょう。
血圧は悪いもの?
血圧は本来血液が循環する際に血管にかかる圧力を意味します。誤解している方もいますが、血圧自体は決して悪いものではありません。現に、血圧がある程度ないといわゆる低血圧状態になり、全身に十分な血液が行きわたらず、めまいや起床時のだるさなどの不調が起こったりします。
しかしながら、逆に高すぎる状態が続いても問題となり、これが高血圧と呼ばれる状態です。高すぎる状態が続いてしまうと、血管や心臓に大きな負担がかかり、動脈硬化などにつながり、ひどい場合には致死的な病態へとつながってしまいます。高血圧自体には症状がないことが大半ですが、その状態を放置した結果、その先にある血管や心臓への悪影響へとつながってしまうことがあるため、高血圧は「サイレントキラー」と呼ばれることもあります。
血圧の管理は難しい?
血圧は日々変化するため、たった1回の測定で血圧が高かったからといってすぐに高血圧であるとは断言できません。また、検査の時だけ高くなってしまう「白衣高血圧」の方もいるので、日頃からの血圧把握が大事になります。
現在、多くの医療機関では「血圧手帳」をもらうことができますし、血圧測定器も従来の腕に巻き付けるタイプだけではなく、腕を装置に固定できるものや、小型で手首に巻き付けて測定できるものなど、いつでもどこでも誰でも簡単に測定できるようになってきたので、血圧の管理はしやすくなってきているといえるでしょう。
高血圧は厄介?
高血圧には原因が特定できる(1)二次性高血圧と、原因が不明である(2)本態性高血圧の2種類があります。
(1)二次性高血圧はホルモン異常などの他の疾患が高血圧を引き起こすもので、原因の疾患が改善されたら高血圧状態も緩和されることがあります。
(2)本態性高血圧は厄介で、特定の因子が原因であると断言できず、家族に高血圧の方がいるなどの遺伝的要因、ナトリウム排泄の異常、肥満、喫煙などの複数の因子が複雑に絡み合った結果起こると考えられています。実は高血圧患者さんの約95%が(2)本態性高血圧なので、色々な種類の高血圧の薬の中からその患者さんの病態にぴったりと合った薬を選ぶのは、かなり難しいことといえます。よく血圧の薬の効きが悪くてまた薬が変わったという患者さんがいらっしゃいますが、これはその処方医が悪い訳ではなく、それだけ薬を決めるのが難しいということが背景にあるといえます。薬が変わることを嫌がる患者さんも少なくないですが、効かない薬をだらだらと服用することの方が副作用などのリスクがあります。
薬を決めることの難しさを知っておくと、薬剤師としても処方医、患者さん、高血圧の薬の3者の仲介役として、重要な役割を発揮出来ると思います。将来的に人工知能が医療診断に本格的に導入されるようになれば、これまで様々な要因が関与する場合には難しかった診断も、多変量解析とディープラーニングの組み合わせによって可能になるため、その人に合った薬を選ぶことが容易になる時代が来るかもしれません。
漢方医学で見る高血圧とは?
西洋医学の薬とは違い漢方医学には直接かつ強力に血圧を下げられるような薬はありません。しかしながら、これまで紹介してきた通り、漢方医学では血圧の高い低いだけでなく、その患者さんの全身状態や体質などを細かく把握するため、血圧を上げている要因自体に効果を及ぼすことが可能です。逆に言うと、同じ高血圧でもその関与している要因の絡み具合が人によって十人十色なので、相当の診断能力が必要となると考えられます。これも人工知能の本格導入でもっと簡単になる可能性はあります。今回は症状の目安と効果が期待される漢方薬を紹介したいと思います。
漢方医学では、高血圧の原因としては、a.血行不良などのお血、b.「肝」の異常、c.「腎」の異常などによると考えます。他にもたくさんある中でもこの3つが特に多いです。
まずa. 血行不良ではお血状態が毛細血管にまで及んでいることが多いため、全身の血管に効果がある冠元顆粒(カンゲンカリュウ)や血府逐瘀丸(ケップチクオガン)などがよいでしょう。
続いて、b.「肝」の異常ではストレスや怒りなどで自律神経が興奮した結果、身体の陰陽のバランスが崩れてしまい血圧が不安定になります。それに効果のあるものとしては降圧丸(コウアツガン)、竜胆潟肝湯(リュウタンシャカントウ)、黄連解毒湯(オウレンゲドクトウ)などがあります。もし高血圧の方ではっきりとした診断がわからず漢方薬を試したいという方には黄連解毒湯を第1選択としてまずは選ぶとよいと考えられています。
他にも、特に頭痛・肩こりなどを伴う方には釣藤散(チョウトウサン)、いらいらが強い方には抑肝散(ヨクカンサン)、不安・不眠が強い方には柴胡加竜骨牡蛎湯(サイコカリュウコツボレイトウ)などがよいでしょう。高血圧の方はイライラしたりのぼせたりしやすい方が多く、このb.に当てはまる方が多いそうです。
最後に、c.「腎」の異常は慢性化した高血圧や加齢に伴う高血圧の方が当てはまることが多いものです。腎陰不足により潤いがなくなります。寝汗、めまい、耳鳴り、足腰のだるさ、渇きなどが起きやすくなります。これには六味地黄丸(ロクミジオウガン)、杞菊地黄丸(コギクジオウガン)、瀉火補腎丸(シャカホジンガン)、二至丹(ニシタン)などが良いと考えられます。
もちろん他にももっとたくさんの漢方薬があります。ぜひご自身でも勉強してみてください。
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