「金鳥の渦巻」という商品名がついている蚊取り線香は、日本人であれば一度は使ったことがあるといっても過言ではない夏の必需品です。
最近では、タバコの禁煙ブームもあって煙系のものが避けられる傾向にあり、液体薬剤を使用した商品や、蚊が嫌がる波長の超音波を利用したものも出てきてはいます。

しかしながら、金鳥の渦巻の独特の線香の香りがすると夏を思い出し郷愁を抱くという人も多く、日本の夏の香りとして今後も不滅のものではないでしょうか。
これを実用化するまでには秘められた歴史があります。
「家庭薬ロングセラーの秘密(薬事日報社)」を参考に紹介したいと思います。

あの福沢諭吉とも縁があるものだった!?

1886年に、福沢諭吉の教え子であった上山英一郎が、諭吉の紹介で偶然アメリカの植物会社社長のモアという人と知り合いました。
その際に、モアから贈られた品物が発端となっています。
その贈り物の中に除虫菊の種が入っていたのです。
除虫菊に含まれる殺虫成分に興味を抱いた英一郎は、蚊取り研究を始めることにしました。

商品化に必要となったひらめきとは!?

実際、研究をはじめてから商品化に至るまでには、偶然の出会いと内助の功の二つによるひらめきがありました。
ノミ対策で使われていた除虫菊の粉ですが、どのように空を飛び回る蚊用に実用化すればよいのかと必死に考えていた英一郎は、ある日東京の旅館に立ち寄りました。

そのとき偶然に同じ宿に宿泊していた仏壇線香屋の息子がいたのです。
二人で会話を交わしていくうちに、線香は香り成分の粉を含み、火をつけて気化することで香りが空中まで広がるという発想から、線香に除虫菊の粉を混ぜることを思いつきました。
まさに、世界初となる蚊取り線香が生まれた瞬間でした。

1890年に商品化されたものの、ここでまた壁にぶち当たります。
この時の蚊取り線香はいわゆる普通の線香の形と同様の棒状で、折れやすくかつ燃焼時間が1時間すらも持たない代物でした。
また英一郎の苦悩の日々がはじまります。
あまりにも苦悩しているのを見かねたゆき婦人が、「棒を丸めた渦巻き状にしてみたらどうかしら」と発案します。
渦巻き状にすれば狭い面積内で長さをかせぐことができます。
その一言により、1902年、ついに渦巻き蚊取り線香が誕生したのです。

ロングセラーの秘密は安全性の高さ!?

商品誕生から100年以上も長きにわたって愛されている理由は、成分の安全性の高さにあります。
有効成分のピレスロイドは蚊を含めた昆虫類には殺虫効果を発揮しますが、人などの恒温動物の体内では酵素によって速やかに分解された後に体内に排出されます。
加えて、ピレスロイドは光・空気・熱の存在下では、他の殺虫成分より分解されやすいという特徴もあります。
つまりは役目を果たしたらすぐに分解してくれるのです。
人にも自然にも優しいことが長年愛用された理由なんですね。

昔は一つ一つ職人が手で巻いていましたが、現在は機械を使って素早く確実に巻けるようになりました。
そのことで、大型渦巻きの長時間型のものも登場してきています。
これからも日本の夏は金鳥の夏であってほしいですね。患者さんとの小話にでも使ってみてください。