ちょっと変わり種の薬剤師として「学校薬剤師」という職種が存在します。一般の方はもちろん、薬学生や薬剤師の中にも正しく理解している方が意外といると感じています。今回は学校薬剤師について見ていきたいと思います。
学校薬剤師って実は法令にきちんと規定されている専門職種！？
学校薬剤師と聞くと、一見通称のような印象を受けますが、実はきちんと名称が法令に記載されている専門職になります。その法令は「学校保健安全法」で、そこにはっきりと、「学校には学校医、大学以外の学校には学校歯科医または学校薬剤師を配置する」と定められています。これは義務規定になるのでかなり強いものです。
この規定が誕生したきっかけとしては、昭和5年に北海道で起こった事故でした。風邪をひいた児童に解熱剤（アスピリン）と間違えて、毒物に指定されている「塩化第二水銀」を服用させてしまい死亡させてしまったのです。 よく考えてみると、小中高には、いざというときにいろいろな医薬品が常備されているものの、管理がずさんだったという背景がありました。きちんとした医薬品の専門家を配置しようという動きになり、前述した学校薬剤師の規定が生まれたのです。
どんな仕事を担っているのか？
学校薬剤師の業務内容に関しても、実は法令にきちんと列挙されています。前述した学校保健安全法に関する省令である「学校保健安全法施行規則」に次のように書かれています。
一 学校保健計画及び学校安全計画の立案に参与すること。
二 第一条の環境衛生検査に従事すること。
三 学校の環境衛生の維持及び改善に関し、必要な指導及び助言を行うこと。
四 法第八条の健康相談に従事すること。
五 法第九条の保健指導に従事すること。
六 学校において使用する医薬品、毒物、劇物並びに保健管理に必要な用具及び材料の管理に関し必要な指導及び助言を行い、及びこれらのものについて必要に応じ試験、検査又は鑑定を行うこと。
七 前各号に掲げるもののほか、必要に応じ、学校における保健管理に関する専門的事項に関する技術及び指導に従事すること。
これらをもっと具体化すると、プール水の衛生環境維持、学校給食の衛生管理、教室内の照度などの定期的な検査、薬物乱用防止活動、手洗い指導、医薬品や毒物劇物などの管理方法に関する助言など、かなり多岐にわたります。
よく考えてみると、学生時代に安心してプールに入ったり、給食を食べられた背景には学校薬剤師の影なる活躍があったのだろうと、自分が薬剤師になってから理解できました。
そう考えると、とても重要な仕事だとも実感できます。学校医や保健室の教諭みたいに表には出てこないものの、「学校の保健衛生を支える縁の下の力持ち」と言えます。
普段あまり認知されていない理由とは？
そもそも学校薬剤師は通常、そこの学校に常駐している教職員ではなく、非常勤職員扱いになります。つまり、大半の方は、普段は薬局や病院で薬剤師として働いていて、月1回程度という頻度で、学校に赴き、前述した業務を行います。いわば本業の合間の副業として行うものです（ちなみに、副業が禁止であっても学校薬剤師に関しては認めるという会社も多いです）。
なお、求人サイトではほとんど見かけることはありません。ほとんどが、これまで勤務していた薬剤師が辞めるタイミングで欠員補充という形で採用活動が行われます。公立学校の場合には所轄の教育委員会から各地薬剤師会に話が来て、薬剤師会から適任者を紹介という流れになりますが、私立学校の場合には、薬剤師会に相談が来る場合のほか、その学校を運営する法人が直接募集をかける場合もあります。
つまり、学校薬剤師を目指すならば、まずは薬剤師会に入会するのが良いと思います。ただし、薬学部を卒業して国家試験を終えたばかりの新人薬剤師がいきなり抜擢されるということはほぼなく、薬局や病院で薬剤師の臨床業務をある程度積んできた方が選ばれることが多いです。目安としては、薬局であれば、まずは管理薬剤師になれるレベルの知識と経験を積むと良いでしょう。
前述した学校薬剤師のやるべきことはいわば、学校の保険衛生マネジメントという側面もあり、やはり管理経験が必須と言えます。加えて、薬学部で勉強する科目のうち、「衛生薬学」の知識が一番必要とされるので、薬剤師になった後も、常に衛生薬学だけは忘れないように努めると良いでしょう。 今薬剤師として現場でがんばっている方々にこそチャンスがあるため、まずは日々の業務をきちんとこなせるようにした上で、ぜひ興味ある方は挑戦してみてください。
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