新型コロナウイルス蔓延が世界的にも続く中、ワクチンや治療薬への期待が高まっています。そういった中で治験についての報道を連日耳にするようになりました。薬剤師であっても治験に関わることは多くないかと思いますが、薬のプロとして治験について詳しく知っておくとよいでしょう。今回は治験についてご説明します。

治験とはそもそも何?

治験と混同されがちな言葉として、「臨床研究」と「臨床試験」があります。薬剤師の方でもこれらを混同しがちですのでここで正しい定義を復習しましょう。

まず「臨床研究」とは、ヒトを対象として病気の予防、診断方法・治療方法の開発、病気の原因解明のために行われる医学的研究のことを指します。
そして「臨床試験」は、ヒトでの有効性や安全性を確認するための試験を指します。
また、「治験」は新薬の有効性や安全性などの確認をして、医薬品として製造・販売の許可を得るために行われる臨床試験のことを指します。

つまり、臨床研究の1つとして臨床試験があり(臨床研究としては他に非臨床試験や疫学があります)、さらに臨床試験の中でも特に新薬を開発するための臨床試験のことを治験と呼ぶということになります。まずはこの3つの関係性をしっかりと理解しておくことが大事です。

治験の具体的な進め方とは?

まずは天然物や化学合成物に関わらず、いろいろな物質から薬の候補となる物質を探します。ついで、動物でその物質の効果や毒性を調べます(これが前述の非臨床試験にあたります)。そこで効果や毒性についての確認ができたら、いよいよヒトを対象とした治験に進みます。

治験には3段階あり、まずは少数の健康成人を対象にして安全性や薬物動態を調べる第I相試験、つづいて少数の患者さんを対象にして安全性や有効性および用量を設定する第II相試験、最後に多数の患者さんを対象にして安全性や有効性の確認に加えて、適応疾患における用法用量を確認する第III相試験という流れになります。ここで良好な結果が得られた後に、厚生労働省に申請を行い、その申請を厚生労働省が厳しく審査して、承認されることでようやく新薬発売にこぎつけられます。しかし、販売して終わりではなく、販売されるようになった後も引き続き市販後調査が必要です。新薬を作り、かつそれを薬としてきちんと販売し続けるためにはかなり厳密なプロセスが用意されていることがわかります。

覚えておきたい!治験で準拠すべき基準

治験に関連する言葉としてたくさんの専門用語がありますので、それをここで整理したいと思います。

GLP(Good Laboratory Practice)は非臨床試験時に遵守する必要がある施設や手順などについての基準(優良試験所規範)のことです。これに関する適合性調査は承認申請の前に行われます。
GCP(Good Clinical Practice)は治験時に遵守する必要がある基準のことです。承認申請後の審査段階でこれの適合性調査が行われます。
GMP(Good Manufacturing Practice)は医薬品製造所における製造管理や品質管理基準のことです。どんなに治験自体を厳密に行ったとしても、そもそも使用する医薬品自体に問題があれば意味がないため、使用する医薬品の品質に関しても規制がなされているわけです。
GPSP(Good Post-marketing Study Practice)は承認されて製造販売されるようになった後の市販後調査や試験を実施するさいに遵守する必要がある基準のことです。
GVP(Good Vigilance Practice)は製造販売後の安全管理基準のことで、医薬品の製造販売業者の許可を得る際には必ず具備していなければならないものとなります。

治験に関わる機関や職種の用語

治験に関わる用語の中で機関や職種に関してもたくさんの用語があるためここでまとめます。

CRO(Contract Research Organization)は開発業務受託機関のことで、製薬企業から委託を受けて医薬品開発に関する様々な業務を代行します。
CRA(Clinical Research Associate)は臨床開発モニターのことで、その多くはCROに所属しています。製薬企業からの依頼を受けて、医療機関を訪問し、治験が正しく行われているか監視する役割を持ち、症例データの収集や進歩状況管理などを担います。
SMO(Site Management Organization)は治験施設支援機関のことで、治験を実施する医療機関の治験業務を支援する外部機関です。つまりCROは製薬企業を支援する機関、SMOは医療機関を支援する機関になります。
CRC(Clinical Research Coordinator)は製薬企業側のCRAと治験実施医療機関の医師や各部署(治験事務局や薬剤部など)と協力して治験を進めていき、治験に参加する患者さんをサポートします。いわば、製薬企業、実施医療機関、患者さん相互の橋渡し役と言えます。医療機関に直接雇用される場合と、SMOに所属して医療機関へ派遣される場合とがあります。SMOに所属する場合には複数の医療機関の治験を担当することも多くなります。
IRB(Institutional Review Board)は治験審査委員会で治験の科学性や倫理性などに基づき、治験の実施または継続や中止の適否を審査する委員会です。医療機関内に医学や薬学の専門家およびそれ以外の者によって構成されますが、医療機関の長、治験責任医師、製薬企業から独立している必要があります。

この中でも特に重要なのが橋渡し役のCRCになります。CRCになるために特に資格は必要ありませんが、やはり医療系国家資格を持った方が優遇される傾向にあります。CRCの半分以上は臨床検査技師、看護師、薬剤師で占められています。こう見ると治験ひとつとっても多くの制度や機関、人が関与していることがわかります。ここでは紹介できなかったこともありますので、ぜひご自身でも勉強してみてください。

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