今や国民病とも言えるがんの治療法は日々進歩しています。「外科治療」、「放射線治療」、「抗がん剤治療」がいわゆる三大療法ですが、近年これらとは少し概念が異なる第四の治療法として、「免疫療法」が現場で導入されるようになってきています。薬剤師も今後関わってくると考えられますので、ここできちんと理解しておきましょう。

そもそも免疫療法とはどんな治療法なのか??

 免疫とはご存知のように、体外から侵入してきた異物を排除するために、もともと生体に備わっている能力です。がん細胞は日々生まれていますが、すぐにがん組織へ発達しないのは、この免疫が体内のパトロールを行い、発見したがん細胞の排除をしてくれているからです。この免疫の能力を高めてがん治療に応用しようというのが、がん免疫療法です。

 免疫システムは長年謎のベールに包まれていましたが、最近になって研究が大きく進み、全体像が徐々に明らかになってきました。免疫療法は世界的にも注目度が高まっています。2013年には、あの一流科学誌「Nature」と双璧をなすアメリカの一流科学誌「Science」が、「がん免疫療法は身体の免疫システムを利用した非常に魅力的な治療法である」と認定。その年の科学のブレイクスルーに選びました。

 これまでの三大療法は外部の力を借りてがんを治療するのに対し、前述したように免疫療法は自身が持っている免疫を活かして治療します。免疫の活性化を待たなくてはいけないので即効性がない場合もありますが、効果が長時間持続することが特徴です。また、自身の免疫を使った治療なので、体力があり免疫の働きが衰えてない、早期の段階でより効果を上げることができます。他のがん治療よりも副作用が少なく、三大療法とも組み合わせることができるというメリットもあります。

免疫療法にはどんな種類があるのか??

 1990年代までの免疫療法は、身体全体の免疫機能を底上げしてがんを倒すことを目指す「非特異的」なものでした。この発想の下で出てきたいずれの治療法も、進行がんに対する単独での有効性は証明されませんでした。

 1990年代以降になり、免疫細胞ががん細胞を攻撃するメカニズムが明らかにされました。正常細胞に影響なく、がん細胞だけを攻撃するという「特異的」な治療法が医療現場に導入されるようになり、効率的な治療法が行えるようになったのです。さらに、がん細胞が免疫応答を抑える分子メカニズムも解明されてきたことにより免疫療法は飛躍的に進歩してきました。具体的に見てみると、特異的な免疫療法を応用したものとしては、分子標的薬のリツキシマブ(リツキサン®)やトラスツズマブ(ハーセプチン®)がすでに使われています。ただこれらでさえやはり副作用の問題は避けられずに、免疫療法としての認識よりも抗がん剤の一種として広まっています。

 そんな中、ある日本人の研究者によって画期的な免疫療法がもたらされることになりました。

ついに出てきた画期的な治療法!!

 免疫細胞にはブレーキのようなものがついていて、がん細胞がその「ブレーキを引く」ことで、免疫を抑制することが長年の研究でわかってきました。この研究成果を上げたのは、京都大学客員教授で日本を代表する免疫学者、本庶佑博士です。

 それまでは「免疫のアクセルを踏み込む」という発想でした。これに対し、彼はPD-1という免疫細胞上のタンパク質が「ブレーキ」となることをつきとめ、「がん細胞が効かせているこのブレーキを解除してやれば、結果的にアクセル全開になり、がん細胞と戦う力を取り戻せる」ということを解明したのです。

 そこで本庶佑博士は、この働きを利用した薬の共同開発を製薬会社に持ちかけました。しかしどの製薬企業も、それまで免疫療法が世の中に認められていなかったため、乗り気にならなかったそうです。

 その後、本庶博士の研究に注目したアメリカの研究者とベンチャー企業が協力して、PD-1を抑える薬を開発し、高い効果を証明しました。この薬は免疫チェックポイント阻害剤と呼ばれ、ニボルマブ(オプジーボ®)などの製品化もされています。ただし、安全性を含め検証がまだ十分でないことから、保険適用されておらず、高額な治療費がかかる等の問題も存在しています。

 将来、もっと安価で画期的な免疫療法が行えるようになればいいですね。薬剤師の皆さんも、ぜひ免疫療法について知っておいてください。