カルシウム不足と叫ばれて久しい日本人ですが、日本において長い事愛されている薬の一つが「ワダカルシューム錠」です。
カルシウム錠剤はサプリメントまで含めると多種存在していますが、「カルシウム」錠剤なのに名前が「カルシューム」錠というインパクトな名前のおかげもあり、特に気になる商品ではないでしょうか?
これを製造するワダカルシウム製薬株式会社はカルシウム一筋の会社です。
名前からわかる通り、カルシウム不足を補う薬ですが、意外な出来事から誕生した薬だったのです。
「家庭薬ロングセラーの秘密(薬事日報社)」を参考に紹介します。
結核の治療薬がなかった時代にカルシウムに注目
現在カルシウムは、骨に必須であるだけではなく、精神安定にも必要不可欠なものとしての認識が当たり前となっています。
もちろん、薬剤師であれば、神経伝達や筋肉の収縮などに必須であることは知っているでしょう。
しかし明治時代に今回の商品が開発されるまではあまり重要視されていなくて、ほとんど注目されてはいませんでした。
そんな時代に、カルシウムに着目したのが和田卯助(以下、敬称略)でした。
ワダカルシウム製薬株式会社の前身である江戸から続く和漢薬問屋の三代目です。
今から考えると先見の明があったと感じられます。
明治43年の正月に、卯助は大阪天満宮に初詣にでかけていました。
その時に偶然ある一人の元気のない老女に出会いました。
声をかけてみたところ、その老女の娘が結核でとても苦しんでいるのに効果のある治療薬がなくて、ただ死ぬのを待つだけでは忍びなさ過ぎる、と突然目の前で泣き崩れたのです。
これが卯助の熱意を強く動かしました。
治療薬がないのなら、人が持つ自らの自然治癒力を高めることで結核と闘えないか?と思いつきました。
文献を探していたある日、地元の大阪府立高等医学校(今の大阪大学医学部)教授の片瀬淡博士が「結核の治療にカルシウムを役立てる研究をしている」というニュースが卯助のもとに飛びこんできました。
早速面会してみたところ、片瀬博士も結核が国民病として国家の発展を妨げていることを心配しており、結核治療法の開発という理念で意気投合しました。
片瀬博士から、カルシウムが自然治癒力を高め、その結果、結核の予防や治療に有用であるという知識を得たのです。
そして明治44年、「ワダカルシューム錠」が完成したのでした。
宣伝文句を変えた事で大ヒット!?
やっとの思いで「ワダカルシューム錠」を作り出した後は、「健康増進・結核予防」を謳い文句に新聞等に広告を出していきました。
多くの人が購入してくれることで健康な人が増えるはずだと確信していた卯助でしたが、予想に反して売り上げ自体はあまり伸びませんでした。
一人でも多くの人に手に取ってもらうにはどうすればいいかと、試行錯誤の日々がはじまりました。
そんな中、「子供を産むと、歯がガタガタ、骨がボロボロになる」という母親の言葉をふと思い出しました。
出産によって子供にカルシウムを持っていかれてしまうことを表した言葉ですが、これを参考に、「安産のためにワダカルシューム錠」というキャッチフレーズで宣伝することにしました。
このことから、まだ出産にはかなりの危険が伴った当時、命がけで出産に臨む妊婦に広く支持され、爆発的ヒットを生み出す人気商品へと変貌を遂げたのです。
その後、現代に至るまで、ワダカルシウム製薬株式会社は卯助の思いを受け継ぎ、カルシウム一筋で人々の健康へと貢献し続けています。
数あるカルシウム錠剤の中でも何か気になる雰囲気を醸し出していたのは、こういった卯助の熱く一途な思いが生み出した薬だったからなんですね。
カルシウムについて相談された際に、是非このお話を患者さんへの説明に添えてみてください。