リクナビ薬剤師 リサーチセンター

10 服薬指導が高齢患者のアドヒアランス向上に役立った経験
患者が薬識不足で誤った自己判断をした事例集

2017.03.28

1.薬識不足による服薬ノンコンプライアンス
丁寧な説明で改善した事例 3事例

トイレが近くなるためラシックスの服用に躊躇
服薬しなければ透析になるリスクがあると説明して服薬コンプライアンス改善

<患者>
80代・女性/慢性腎不全
<処方>
ラシックス

クレアチニン値が上昇しており、カリウム値も高い患者。ラシックスによりトイレが近いことに悩んでいた。前医より薬の説明がなかったらしい。ラシックスは必要不可欠の薬であり、オシッコが出ていることで腎臓の機能が保たれていること、薬をやめてオシッコが出なくなると透析が必要になるかもしれないことを説明し、服薬コンプライアンスが向上した。

<薬剤師>50代・男性・一般病院・正社員

薬は使わないほうがよいとの認識でオキノーム散の服薬を我慢
疼痛時の積極的使用を指導して服薬コンプライアンス改善

<患者>
80代・女性/大腸がん
<処方>
オキノーム散

患者は、もともと薬はなるべく使わないほうがよいという認識を持っており、疼痛時頓用のオキノーム散を痛みがあるのに我慢して使っていなかった。痛みが出はじめたときに積極的に使うべきであることと、1回使って1時間経ってもダメなときは量が足りていない可能性もあるから、繰り返し使う必要があることを説明。実際に試してもらうと、効果が得られた。それ以降は、積極的に使うことができるようになった。

<薬剤師>30代・男性・一般病院・正社員

使ってもよくならないとキサラタンを自己判断で中止
進行抑制効果を説明して服薬コンプライアンス改善

<患者>
60代・女性/緑内障
<処方>
キサラタン

緑内障の点眼剤を使っている患者が「点眼薬を使っても見えるようにならないから、あまりさしてない」と述べた。進行を抑える薬であって見え方が良くなるわけではないこと、見えなくなってからでは取り返しがつかないので、きちんと続ける必要があることを説明したところ、使う意味を納得してくれた。

<薬剤師>50代・女性・調剤薬局(クリニック・医院近く)・パート

2.副作用の経験による服薬ノンコンプライアンス
安全性への正しい説明で改善した事例 1事例

過去に副作用で辛い思いをしたため処方薬を服薬せず
丁寧に薬の安全性と効果を説明して服薬コンプライアンス改善

<患者>
80代・女性/高血圧、高コレステロール
<処方>
ブロプレス、リバロ

薬で副作用が出て辛い思いをした経験から、処方されてもほとんど飲んでいなかった。血圧も高いままで、ブロプレスは8mgに増えたところだった。

いつもは話もせずに帰ってしまうが、心配事はないですかと聞くと、「実は飲んでないの。先生にも言ってない」と述べ、血圧について医師は何か言っていましたかと確認すると、「血圧が160超えているからすごく心配だと言っていた。それを聞いて少し不安になった。だけど、過去に薬で副作用が出て怖い思いをしたから、服薬が不安」とのこと。ブロプレスは高齢者を含めて多くの人が服薬していること、どんな薬も副作用は出る可能性はあるものの、高血圧をそのままにしておくリスクより、何十倍も副作用のリスクは低いこと、少しでもおかしいと思ったらすぐに医師に連絡するなどすれば、副作用で取り返しがつかないほど辛い状況になることは避けられることを伝えた。初めて飲む気になったのであれば、血圧の薬が4mg→8mgになったが、今まで飲んでいないので8mgでなく、余っている4mgを飲むことを指導。また、160ある血圧が薬で下がることから、低血圧になったと勘違いしてふらつくことがあるがすぐ慣れるので、飲み始め1週間は階段、立ち上がるときなど気をつけることを伝えた。さらに、併用のリバロについては医師に特に指摘されていないのであれば、1番問題の血圧の薬だけで様子をみて、2週間後の診察で今までの事情を話して今後の相談をするようにと話した。

今回は、薬の増量の話から服薬していないことと、過去の副作用で今回の服薬したくないとの事実を知ることができた。また、話を本人主導にすることで、飲まないことも不安だから服薬するという気持ちに変わった。ただし、今回の8mgを飲むには心配なので4mgを飲むこと、心配される副作用を伝えておくこと、それが重大な副作用ではなく慣れることでなくなる副作用であることを前もって伝えたことで、不安を払拭できて、帰宅後からすぐ服薬することにつながった(後日確認済み)。

その後、リバロも1日置きで飲むことを医師と話し合いで決めるなど、服薬に積極的になってくれた。

<薬剤師>40代・女性・調剤併設型ドラッグストア・パート

3.医薬品と食事・サプリメントの相互作用への誤解
薬への影響を正しく説明し改善した事例 3事例

「ワーファリンは朝食後だから、納豆を夕食に摂るなら大丈夫!」と勘違い

<患者>
70代・女性/疾患未回答
<処方>
ワーファリン

納豆は摂らないように指導していたが、ワーファリンの服用時点が朝食後だったため、夕食後なら大丈夫だろうということで納豆を食べていた。ワーファリン服用中は、時間がずれていても納豆の影響を受けると説明。医師にもフィードバックした。

<薬剤師>30代・女性・調剤薬局(門前薬局)・パート

「ニフェジピンは、グレープフルーツと一緒に服用すると効き目が良くなる!」と勘違い

<患者>
70代・男性/高血圧
<処方>
ニフェジピン

消化器系の疾患で入院した患者の初回指導に行った際に、カルシウム拮抗薬を服用しており、「グレープフルーツを食べると効き目が良くなると知人から聞いた」と述べた。効き目が良くなるのではなく、作用が強く出てしまうメカニズムについて説明を行い、また、柑橘系は全てダメなのかと聞かれたため、食べられる柑橘系と食べられない物をリストにした物を渡した。患者本人も安心され、グレープフルーツについての認識が変わったと述べた。

<薬剤師> 20代・女性・一般病院・正社員

アルファロール服用中、「ビタミンDサプリメントを追加すればより骨によい」と勘違い

<患者>
80代・女性/骨粗鬆症
<処方>
アルファロール

アルファロールを服用されている患者。「骨にはビタミンDがいいのよね?ドラッグストアにてビタミンDサプリメントを購入しようと思う」と相談された。大量に摂取するなど、適切な量を服用しないと逆に骨が弱くなると指導すると、「じゃあ、サプリメントはやめて、お医者様からのお薬をしっかり飲むわ」と述べた。

<薬剤師>30代・女性・就職活動中

東京大学大学院薬学系研究科 澤田教授からの講評

服薬アドヒアランス、服薬コンプライアンスを維持する上で、患者に薬効、服用法、飲み合わせ、副作用などをきちんと理解してもらうこと(薬識)は非常に重要です。誤った理解から、飲んでも効かない、薬は怖い、飲まないほうがよいなどの考えに至り、飲まなくなることもあります。また、飲食物や健康食品・サプリメントとの相互作用は、医療者が関知しない中で起こることもありますので、患者への十分な説明が必要です。

このような薬識不足による服薬ノンコンプライアンスは、元をたどれば、薬を開始するときの患者への説明不足があるかもしれませんので、肝に銘じる必要があります。

注:服薬コンプライアンスは患者が医療従事者の指示に従って、処方薬を服用すること、服薬アドヒアランスは患者が積極的に処方薬の決定に参加し、治療を受けることを意味する。

2016年9月、リクナビ薬剤師会員に「高齢患者の服薬アドヒアランス不良に関するアンケート」を実施し、その中で、高齢患者への服薬指導に役立つ事例を多くお寄せいただきました。
東京大学大学院薬学系研究科の澤田康文教授に、特に優れた事例をピックアップしてもらい、6つのカテゴリーに分類し、講評をいただきました。

監修:東京大学大学院薬学系研究科
客員教授
澤田康文
編集:東京大学大学院薬学系研究科
客員教授
澤田康文
特任助教
佐藤宏樹

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