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服薬指導が高齢患者のアドヒアランス向上に役立った経験
多剤併用・複数診療科受診により混乱を招いた事例集
多剤併用・複数診療科受診により混乱を招いた事例集
2017.03.28
1.多剤併用による服薬ノンコンプライアンス
処方整理や一包化で改善した事例 3事例
一包化調剤、服薬日の記載、処方日数を短く
服薬状況のこまめな確認で服薬コンプライアンス改善
- <患者>
- 80代・女性/高血圧、糖尿病、脂質異常症、腰痛など
- <処方>
- ブロプレス、メデット、ジャヌビア、リピトール、リリカなど
患者が、次の受診予定よりも前に来局。毎回、薬がゴチャゴチャになり、どうしたらよいかとの相談。一包化や服用日記載について、一つひとつを簡単な言葉で丁寧に説明し、理解を確認。処方日数を28日から14日に変更してもらい、短いスパンで服用状況を確認するようにした。多少の飲み忘れやズレは生じるが、以前と比べて劇的に服用状況が改善した。
<薬剤師>30代・男性・調剤薬局(門前薬局)・パート
朝食後・朝夕食後・夕食後・毎食後を朝夕食後のみへ
服薬時点を統一して服薬コンプライアンス改善
- <患者>
- 70代・女性/てんかん、高血圧、高脂血症、脳梗塞、便秘
- <処方>
- テグレトール、メバロチン、ミカルディス、シロスタゾール、マグミット
患者は朝食後服用、朝夕食後服用、夕食後服用、毎食後服用と服用時点が分かれていたので、飲み忘れが多かった。(1)まず、一包化にして3ヵ月程様子を見たが、どうしても飲み忘れが出てしまった。(2)担当医に服用時点を1日2回にすることが可能かどうかについて、投薬設計を提案したところ、1日2回、朝夕食後の服用に処方変更となった。その結果、飲み忘れなく服用できるようになった。
<薬剤師>50代・女性・その他の調剤薬局・正社員
一包化調剤を提案して服薬コンプライアンス改善
- <患者>
- 70代・女性/初期の認知症、高血圧症、筋痛症、尿量減少ほか
- <処方>
- ドネペジルほか
患者は3診療科に通院中で、本人も少し記憶があいまいだと自覚している。朝食後の服用薬が12種類と多いため、一包化を提案し、残薬をすべて持参するよう指導。提案を受け入れてもらえた。用法のみの印字(日付の印字が小さいため)だが、薬袋に手書きで服用開始日を記入。2回目の一包化から、服薬のわずらわしさが軽減したためか、服薬コンプライアンス向上。
<薬剤師>60代以上・女性・調剤薬局(クリニック・医院近く)・正社員
2.複数施設・複数診療科受診で類似薬が重複処方
疑義照会により改善した事例 2事例
3ヵ所の病院からレミニール、メマリー、アリセプトが重複処方
各医療機関へ連携し1ヵ所へ集約
- <患者>
- 80代・男性/認知症
- <処方>
- レミニール、メマリー、アリセプト
認知症の患者の妻が、夫(患者)の相談のため3ヵ所の内科にかかっており、お薬手帳を見せなかったため、3ヵ所から認知症の薬が処方されていた。各内科への連絡を拒否され対応に苦慮したが、説得して1ヵ所にまとめることができた。
<薬剤師>50代・女性・調剤薬局(門前薬局)・自営
整形外科でロキソニン服用中、風邪で内科にかかりイブプロフェンが処方
両科へ連絡しイブプロフェンは削除
- <患者>
- 70代・女性/上気道炎
- <処方>
- クラリシッド、イブプロフェン
患者本人から整形外科でロキソニンを服用中と聞いたが、医師にそのことを話していないとのことで、疑義照会してイブプロフェンが削除になった。患者は「整形でもらう薬なので、内科の薬は関係ないと思っていた」とのことで、説明し理解してもらった。
<薬剤師>50代・女性・調剤薬局(門前薬局)・パート
東京大学大学院薬学系研究科 澤田教授からの講評
多剤併用(ポリファーマシー)は、薬物治療上で問題となるだけでなく、患者の服薬コンプライアンスにも影響を及ぼすことがあります。処方内容(薬剤数、服用時点など)の単純化を提案することは、根本的な対応であり、薬剤師の重要な役割です。また、単に一包化調剤を行うだけでなく、患者に応じて日付や服用時点の印字などの工夫も求められます。
複数診療科受診による重複処方は、重複を確認できない医療者側の問題ではありますが、患者に重複処方のリスクを理解してもらい、お薬手帳の所持・提示を啓発することで、重複処方の発見につなげることができます。
2016年9月、リクナビ薬剤師会員に「高齢患者の服薬アドヒアランス不良に関するアンケート」を実施し、その中で、高齢患者への服薬指導に役立つ事例を多くお寄せいただきました。
東京大学大学院薬学系研究科の澤田康文教授に、特に優れた事例をピックアップしてもらい、6つのカテゴリーに分類し、講評をいただきました。
- ① 多剤併用・複数診療科受診により混乱を招いた事例集
- ② 服用するタイミングや剤形の変更・後発医薬品への変更が有効であった事例集
- ③ 丁寧な服薬指導が必要な骨粗鬆症治療薬の事例集
- ④ 患者の性格や羞恥心にも配慮が必要な利尿薬・便秘薬の事例集
- ⑤ 患者が薬識不足で誤った自己判断をした事例集
- ⑥ メディアや知人に流されてしまった事例集
- 監修:東京大学大学院薬学系研究科
- 客員教授
- 澤田康文
- 編集:東京大学大学院薬学系研究科
- 客員教授
- 澤田康文
- 同
- 特任助教
- 佐藤宏樹