事例で学ぶ 服薬ケア コミュニケーション
CASE.23
ホルモン補充療法に必要な既往歴の確認は?
- 婦人科
難易度:★☆☆
- 疾患名:月経困難症
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- 医薬品販売名:ヤーズ配合錠
- 医薬品一般名:ドロスピレノン・エチニルエストラジオール
問題
事例における、Assessment:評価、Plan:計画 はどのようなもので、
患者には具体的にどのように説明すればよいでしょうか。
<処方>30歳代・女性、Aレディースクリニック(婦人科)
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- ヤーズ配合錠
- 1錠 1日1回 28日分 月経がはじまる1日目から服用開始
患者は月経痛などがあるため、婦人科を受診し、子宮内膜症による月経困難症と診断されて上記薬剤が初めて処方された。
Subjective data:主観的情報
生理の際に痛みがひどくて、でも、普通の痛み止めだと治らなくて受診しました。
Objective data:客観的情報
・既往歴:片頭痛⇒前兆のない片頭痛とのこと
・月経痛(++)
・妊娠(-)、喫煙(-)、肥満(-)
Assessment:評価は? Plan:計画は?
解答・解説を見る
解答
Assessment:評価
子宮内膜症に伴う月経困難症でホルモン補充療法が開始されたが、患者には前兆のない片頭痛の既往歴があり、症状を悪化させるおそれがある。
Plan:計画
・ヤーズ配合錠服用開始後、片頭痛の悪化がないかをモニタリングしていく。
・片頭痛がみられた際、医師または薬剤師に詳細に報告するように注意する。
説明事例
「今回、あたらしく始まったお薬は、女性ホルモンを補って月経の痛みを和らげてくれるお薬ですが、副作用でまれに頭痛が起きたり、片頭痛の症状を悪くさせたりすることがありますので注意しておいてください。もしいつもより強い痛みや、高頻度で片頭痛がみられたら、医師又は薬剤師へ必ずご連絡ください。」
解答に必要な医薬品情報
ヤーズ配合錠の添付文書
禁忌
前兆(閃輝暗点,星型閃光等)※を伴う片頭痛の患者
<解説>
国内の黄体ホルモン・卵胞ホルモン配合剤(経口避妊剤等)と同様の注意喚起がされた。経口避妊剤服用と片頭痛は共に虚血性脳血管障害のリスクを高める可能性のある要因であり、前兆を伴う片頭痛は前兆を伴わない片頭痛に比べ、虚血性脳血管障害のリスクが高いという報告がある。
慎重投与
前兆を伴わない片頭痛の患者
<解説>
国内の黄体ホルモン・卵胞ホルモン配合剤(経口避妊剤等)と同様の注意喚起がされた。前兆を伴わない片頭痛は前兆を伴う片頭痛に比べ、虚血性脳血管障害のリスクが低いという報告があるが、経口避妊剤使用と片頭痛はともに虚血性脳血管障害のリスクを高める可能性のある要因である。従って、前兆を伴わない片頭痛の患者であっても、服用する場合は注意が必要である。
※ここでの片頭痛の前兆とは、閃輝暗点や星型閃光といった視覚性前兆に代表される角形・弓形で、徐々に拡大する視覚性幻覚などのことを指す[文献1]。
もっと知る!
慢性頭痛ガイドライン 2013 年版における片頭痛と卵胞ホルモン・黄体ホルモン薬[文献 2]
慢性頭痛ガイドラインでは、推奨グレードB(行うように勧められる)で、前兆のある片頭痛では低用量経口避妊薬(以下 OC)は原則禁忌であり、前兆のない片頭痛は禁忌ではないが、OC 投与にあたり慎重な判断を要し、経過観察が必要とされている。
前兆のない片頭痛患者でも、喫煙や肥満の有無や、他の虚血性発作の追加リスク因子がないかによって、脳梗塞などの虚血性脳血管障害のリスクが高くなるので慎重に OC を投与する必要がある。または OC の継続投与により、それらのリスク因子が新規発生していないかにも注意が必要である。さらに、頭痛の発作頻度や重症度の悪化、前兆や持続性頭痛の新規発生がある場合は、OC 投与休止を検討する。
頭痛は、黄体ホルモンや卵胞ホルモンなどを含む薬剤の副作用としてもよくみられる症状であり、投与により、元々の頭痛の悪化だけではなく、別の要因による頭痛(外因性ホルモン誘発頭痛、エストロゲン離脱頭痛)も起こること がある。これらの頭痛の悪化や新規発症は、多くの患者において、OC 投与初期に起こり、継続使用した場合は、薬剤投与群とコントロール群との間で有意差が見られなかったと報告されている[文献 3]。
[文献]
1. 日本頭痛学会・国際頭痛分類委員会 編, 国際頭痛分類第 3 版beta版(ICHD-3β)日本語版,用語の定義p192-193 (2019.2.20 アクセス)
2. 慢性頭痛の診療ガイドライン作成委員会 編,日本神経学会・日本頭痛学会 監修,慢性頭痛の診療ガイドライン 2013年版,p.109-111. (20119.2.20アクセス)
3. Macgregor EA,et a1.,J Fam PLann Reprod Health Care 28(1):27-31,2002.