事例で学ぶ 服薬ケア コミュニケーション
CASE.22
アナストロゾール投与中の患者が骨の痛みを訴えたら?
- 乳腺外科
難易度:★☆☆
- 疾患名:閉経後乳癌
-
- 医薬品販売名:アリミデックス錠1mg
- 医薬品一般名:アナストロゾール
問題
事例における、Assessment:評価、Plan:計画 はどのようなもので、
患者には具体的にどのように説明すればよいでしょうか。
<処方>60歳代・女性、A病院乳腺外来
-
- アリミデックス錠1mg
- 1錠 1日1回 朝食後 28日分
患者は閉経後、乳癌がみつかり、外科手術が行われた。
その術後治療として、内分泌療法が選択され、アリミデックス錠が処方されて継続している。
Subjective data:主観的情報
この前、転んでしまってね。それのせいか、足というか、足の骨が痛いような気がする。
Objective data:客観的情報
・骨の痛み(+)⇒外傷性(転倒)か、薬剤性(アリミデックス錠の副作用)か、疾患性(乳癌転移)か、現時点では不明
・ほてり感、関節痛等の他の副作用が疑われる症状(-)
・肝機能正常
Assessment:評価は? Plan:計画は?
解答・解説を見る
解答
Assessment:評価
アリミデックス錠の投与によって、骨密度が低下して、骨粗鬆症・骨折が起こりやすくなっている可能性がある。骨の痛みも副作用症状として報告がある。
Plan:計画
・定期的な骨塩量の測定が行われているかを確認する。
・今回の骨の痛みに対して、確定診断のために整形外科への受診勧奨を行う。
・アリミデックス錠による骨の痛みなのか、しばらく痛みへのモニタリングする。
⇒もしも、骨の痛みが継続した場合、アリミデックス錠による副作用を疑い、患者の許可のもと、医師へ報告して、薬剤の変更や、骨関連症状対策のビタミンD製剤や骨吸収抑制薬(ビスフォスフォネートやデノスマブ)の追加処方についても相談する。
説明事例
「今お飲みのアリミデックス錠により、骨の密度が減って、骨が弱くなってしまうことがあります。そのため、転倒には十分に気をつけてお過ごしください。
また、定期的な骨密度や骨量の測定が必要なのですが、なさっていますでしょうか。もしなさっていないようでしたら、これから先生にご相談してもよろしいでしょうか。
今回、転んだ足の痛みは、もし続くようでしたら骨折やひびの可能性もありますので、整形外科におかかりになり、骨に異常がないか確認をされた方が良いですよ。早めに整形外科におかかりくださいね。」
解答に必要な医薬品情報
アリミデックス錠のインタビューフォーム
安全性(使用上の注意等)に関する項目
<重要な基本的注意とその理由及び処置方法>
アナストロゾールの投与によって、骨粗鬆症、骨折が起こりやすくなるので、骨密度等の骨状態を定期的に観察することが望ましい。
<解説>
アナストロゾールを含むアロマターゼ阻害薬の薬理作用より、投与後、骨粗鬆症、骨折が発現しやすいことが考えられることから、アロマターゼ阻害薬共通の注意喚起として、設定された。
<骨関連症状の副作用発現頻度の抜粋>
0.1~1%未満※ | 骨折 |
---|---|
0.1%未満 | 骨粗鬆症、骨痛 |
※発現頻度は承認時までの国内臨床試験及び使用成績調査の合計より算出。
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乳癌診療ガイドライン 2018 年版からの抜粋
1. アロマターゼ阻害薬使用患者における骨粗鬆症の予防・治療に骨吸収抑制薬(ビスフォスフォネートやデノスマブ)は推奨されるか?
⇒アロマターゼ阻害薬使用時には、定期的な骨密度の評価を行い、骨折のリスクに応じて骨吸収薬を投与することが標準的である。
<背景と解説>
アロマターゼ阻害薬は、閉経後乳癌患者の術後療法として広く用いられ、その代表的な副作用として骨密度の低下などの骨関連事象(病的骨折,疼痛など)があり、発症頻度は高い。
骨粗鬆症の予防・治療として、カルシウムやビタミンD の摂取が骨折をどの程度減少させるかについての確実なデータはないが、欧米のガイドラインでは、カルシウム 200 mg/日とビタミンD の摂取 800 IU を勧めている。
それ以外の薬物療法として、ビスホスホネート、デノスマブが考えられる。
ビスホスホネートでは、アロマターゼ阻害薬を使用する乳癌患者に対して投与することで、骨密度増加率を検証する無作為化比較臨床試験(RCT)の報告が多数あり、それらのメタアナリスの結果でも同様に、カルシウムやビタミンD の投与より、ビスホスホネート投与追加の方が、骨密度増加に有効であることが報告されている。しかし、いずれも骨折の発生率の有意差はなく、ビスホスホネートの投与追加では、骨塩量は回復しても骨折数は減らない可能性がある。
デスノマブは破骨細胞の前駆細胞に結合し分化を抑制する薬剤で、アロマターゼ阻害薬使用乳癌患者 252 例に対してデノスマブ投与による骨塩量減少の予防効果が報告されている。さらに、アロマターゼ阻害薬投与中の乳癌患者3240例に対しての RCT では、初回骨折までの期間がデスノマブ群で有意に延長した(ABCSG-18s 試験 HR 0.50,95%CI 0.39-0.65,p<0.0001)。その試験では、デノスノブ群は有害事象の増加もなく、骨塩量の増加のみならず骨折に足しても有用性が示されている。また、いずれの試験でも治療時にカルシウムやビタミンD の併用が推奨されている。
アロマターゼ阻害薬使用患者に対する骨吸収抑制薬の投与については世界各国のグループがそれぞれにガイドラインを示しており、統一された基準はない。乳癌患者に限ったものではなく、本邦の「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン」では若年平均成人値(young adult mean;YAM)及び脊椎 X 線所見が治療を考慮する基準としてあげられており、YAM 80% 未満の場合に骨吸収抑制薬の使用を検討することが妥当と考えられている。
[文献]
1. 日本乳癌学会 編,乳癌ガイドライン 1 治療編(2018 年版) 第 4 版,p.185-187,金原出版株式会社,2018.