事例で学ぶ 服薬ケア コミュニケーション
CASE.21
口渇を訴える患者さんで確認するべき検査値は?
- 神経内科
難易度:★☆☆
- 疾患名:双極性障害におけるうつ症状
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- 医薬品販売名:ビプレッソ徐放錠150mg
- 医薬品一般名:クエチアピンフマル酸塩徐放錠
問題
事例における、Assessment:評価、Plan:計画 はどのようなもので、
患者には具体的にどのように説明すればよいでしょうか。
<処方>50歳代・男性、A病院心療内科
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- ビプレッソ徐放錠150mg
- 2錠 1日1回 就寝前 14日分
患者は、双極性障害におけるうつ症状のため、上記処方を継続服用している。
患者が待合室にいる際、薬局に備え付けの水のみ場で、水を飲んでいるところを目撃された。
Subjective data:主観的情報
このお薬を飲んでいたせいか、ちょっと口が渇くんだ。家ではジュースをよく飲んでいるよ。
Objective data:客観的情報
・口渇(+)⇒軽度、多飲(±)⇒無自覚の可能性あり、多尿(-)、頻尿(-)
・現在の空腹時血糖値(BS)、HbA1cの値不明(3ヶ月前のデータ:BS98mg/d、HbA1c5.7%)
⇒本日、採血済みで、次回受診時に結果がわかる予定。
・食欲亢進(±)無自覚の可能性あり、体重増加(+)5kg増量
Assessment:評価は? Plan:計画は?
解答・解説を見る
解答
Assessment:評価
現在、主な症状は口渇で、多飲・多尿・頻尿はまだ自覚症状がない状態であるが、ビプレッソ徐放錠の副作用である血糖値上昇が起きている可能性がある。
Plan:計画
・医師へ口渇があることを伝えているか、患者に確認する。もし医師に伝えていない場合、患者の了承を得て、医師へ電話にて報告し、薬剤の中止または処方変更がないか確認する。
・口渇対策(糖質を多く含むジュースは控える等含めて)について説明し、また、糖質を多く含む清涼飲料水は単独でも高血糖の危険性があるため、大量飲用をしないように注意を促す。
・次回以降も、口渇症状の悪化や他の高血糖症状(多飲、多尿、頻尿等)の発現、及び採血結果(血糖値、HbA1c等)を確認する。
説明事例
「今回の口が渇く症状は、ビプレッソ徐放錠のせいかも知れませんが、先ほど、先生にそのことをお伝えして、確認したところ、そのままお薬を続けるようにとのご指示でした。
そのため、お薬はこのまま続けてもらいますが、口が渇いた時は、ジュースではなくお水を飲むようにしてください。砂糖が入った甘いジュースは口の渇きが悪化することがあります。
また、そういったジュースなどは、体重も増加し、大量に飲むと血糖値が急激にあがって、具合が悪くなる危険性もあるので、普段から控えましょう。そして、お水も1日2L(50歳男性体重70kgの場合、1日の適切な水分摂取量が約2.3Lのため)以上、飲んでもおさまらない場合は、薬剤の中止が必要なこともありますので、医師、または薬剤師へご連絡ください。」
解答に必要な医薬品情報
ビプレッソ徐放錠の重要な基本的注意について
ビプレッソ徐放錠の投与により、著しい血糖値の上昇から、糖尿病性ケトアシドーシス、糖尿病性昏睡等の致命的な経過をたどることがある。このため、本剤投与中は、血糖値の測定や高血糖症状(口渇、多飲、多尿、頻尿等)が現れていないかの観察を十分に行うようにする。患者には、このような症状があらわれた場合には、直ちに投与を中断し、医師の診察を受けるよう指導しておく。特に、高血糖、肥満等の糖尿病の危険因子を有する患者では、血糖値が上昇し、代謝状態を急激に悪化させるおそれがあるので注意が必要である。
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薬剤性高血糖を起こす可能性のある薬剤について[文献1-2]
薬剤性高血糖を起こす可能性のある薬剤には、大きく分けて、インスリン抵抗性を増加させる薬剤とインスリン分泌低下させる薬剤がある。それ以外では、抗結核薬のリファンピシンや抗がん剤のシスプラチンなどで高血糖を引き起こすと報告されている[文献 1]。インスリン抵抗性を増加させる薬剤としては、ステロイドホルモン剤、ホルモン剤(エストロゲンやプロゲステロンなど)、抗ウイルス薬(リバビリン)、LH-RH アゴニスト(酢酸リュープロリンなど)、HIV プロテアーゼ阻害薬などや、本事例のクエチアピンやオランザピンなどの抗精神病薬が挙げられる。一方、インスリン分泌低下させる薬剤としては、サイアザイド系利尿薬やループ利尿薬、ガチフロキサシンなどのニューキノロン系抗菌薬や免疫抑制剤(シクロスポリン等)が挙げられる。
特に、本事例でもあげたクエチアピンやオランザピンなどの非定型抗精神病薬による高血糖の機序は、詳細は不明であるが、末梢や肝臓におけるインスリンに対する感受性の低下がインスリン抵抗性を引き起こしていることや、薬剤性の体重増加が糖尿病と関連していることなどが考えられおり、糖尿病患者には投与禁忌となっている[文献 2]。そのため、これらの薬剤を服用後に体重増加や肥満傾向の患者や高血糖の初期症状である口渇、多飲などを訴える患者には、高血糖にならないように、十分注意していくべきである。
[文献]
1. 山本 剛史 他,昭和学士会雑誌 75(4):426-431,2015.
2. 前田 幹広 他,Intensivist 7(3):598-603,2015.