事例で学ぶ 服薬ケア コミュニケーション
CASE.2
プロトンポンプ阻害薬服用中の患者への薬学的管理のポイントは?
- 消化器系
難易度:★★☆
- 疾患名:逆流性食道炎
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- 医薬品販売名:タケプロンOD錠15
- 医薬品一般名:ランソプラゾール
問題
事例における、Assessment:評価、Plan:計画 はどのようなもので、
患者には具体的にどのように説明すればよいでしょうか。
<処方> 50歳代・女性、内科クリニック
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- タケプロンOD錠15
- 1錠 1日 1回 夕食後 14日分
Subjective data:主観的情報
おかげさまで、胸焼けは良くなっているけど、実は、ここ2~3カ月、水っぽい下痢がよくあるのよ。先生に相談した方がいいかしら?
Objective data:客観的情報
継続した下痢(水様性で血便なし)、血液検査値の異常(-)
Assessment:評価は? Plan:計画は?
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解答
Assessment:評価
水様性下痢の主な原因は、飲食物や基礎疾患によることが多いが、この患者はどちらも心当たりはなさそうである。この患者の下痢は2~3カ月継続しており、現在、服用中のタケプロンOD錠が開始後に下痢が出現しており、タケプロンOD錠は下痢や大腸炎(膠原線維性大腸炎:collagenous colitis 等を含む)を0.1~5%未満の頻度で起こすことからも、薬剤性の慢性下痢が疑われる。ただし、下痢による検査値の異常や体調不良などが無いことから緊急性は高くないと考えられ、また、下痢の原因が薬剤性ではない可能性もまだあるので、患者が勝手に薬を中止しないように注意して、医師へ相談するようすすめる。また、患者の了解を得て、医師にトレーシングレポートを書き、状況を伝えて対応をお願いしておく。
Plan:計画
患者には、タケプロンODの副作用の可能性もあることを伝えるが、患者が勝手に薬を中止しないように注意して説明する。次回、医師に下痢について相談した結果を聞き取り、タケプロンOD錠が中止、変更するか確認する。
説明事例
「下痢の症状については、次回、受診した際に先生に必ず相談してみてください。初めて下痢が起きた時期とその後の頻度や、次回の受診までに下痢があった日と回数、どんな便だったかをメモして、そのメモを先生にみせて相談されるといいですよ。薬局からも先生に伝えて置きますね。今、お飲みのタケプロンOD錠の副作用に下痢がありますが、今回の下痢はお薬のせいとは限らないので、たとえ心配でも、お薬を自己判断で飲むのを止めないでくださいね。このお薬は途中で止めてしまうと、せっかく良くなってきた胸焼けが悪化して、なかなか治りにくくなってしまうかも知れませんので、中止せずにお飲みいただき、下痢の症状が悪くなるようなら、すぐに受診をしてください。」
解答に必要な医薬品情報
タケプロン OD 錠や他のランソプラゾール錠にも、副作用として下痢や大腸炎の報告がある。特に、その下痢が継続する場合、collagenous colitis等が発現している可能性があるため、速やかに投与を中止することとされており、また、腸管粘膜に縦走潰瘍、びらん、易出血等の異常を認めることがあるので、下血、血便が認められる場合には、適切な処置を行う必要がある。(2018.3.30時点)
文献)
1) タケプロン OD 錠15 mg,30 mg 添付文書 2017 年 10 月改訂(第 21 版)
2) ランソプラゾール OD 錠15 mg,30 mg 「JG」 添付文書 2017 年 10 月改訂(第 11 版)
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膠原線維性大腸炎(collagenous colitis)について[文献 1-2)]
膠原線維性大腸炎(collagenous colitis:CC)は、慢性腸管炎症による下痢が主徴の消化管吸収機能異常である顕微鏡的大腸炎(Microscopic colitis)のひとつで、病理学的特徴において膠原繊維の蓄積を特徴とする大腸炎症性疾患である。
中高年の女性に好発し、主な症状は頻回の水様性下痢で、再燃と寛解を繰り返す。重症化すると排便量が5000ml/日を超えることもあり、脱水症状や低カリウム血症、動悸、脱水からの腎不全、低カリウム血症からの致死性不整脈などを合併することもある。
原因の機序は解明されていないが、薬剤との関連が示唆されている。原因薬剤は多岐にわたるが、NSAIDsや、ランソプラゾールなどのPPIの報告が多く、他の薬剤にはアスピリン、チクロピジン、アカルボース、ラニチジン、セルトラリンなどが挙げられる。
治療法は、薬剤が原因と疑われる場合は薬剤の中止、原因不明の場合は慢性下痢を主徴とする炎症性長疾患に準じた治療を行う。軽症例には、カフェインやアルコール、乳製品の摂取制限をする食事指導や、止痢剤、陰イオン交換樹脂、副腎皮質ホルモン剤などの薬物治療が効果を示すことがある。無効例、とくに重症例では手術療法(大腸亜全摘+回腸人工肛門の造設)等が必要となることもある。
一般に予後良好で治療に反応する症例が多いが、下痢が長期間続くと全身状態が悪化して重症化することがあるので、対症療法を平行し、厳重に経過観察する必要がある。
文献)
1) 難病情報センター 消化器系疾患 Microscopic Colitis(顕微鏡的大腸炎)(平成23年度)
2) 辛島嘉彦 他, Mebio 26(11):62-67,2009.