事例で学ぶ 服薬ケア コミュニケーション
CASE.10
バラシクロビルを服用する高齢患者への薬学的管理のポイントは?
- 感染症
難易度:★★☆
- 疾患名:帯状疱疹
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- 医薬品販売名:バルトレックス錠 500
- 医薬品一般名:バラシクロビル塩酸塩
問題
事例における、Assessment:評価、Plan:計画 はどのようなもので、
患者には具体的にどのように説明すればよいでしょうか。
<処方> 70歳代・男性、皮膚科クリニック
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- バルトレックス錠 500
- 6錠 1日3回 毎食後 7日分
Subjective data:主観的情報
体に突然赤いブツブツができたからびっくりしちゃった。帯状疱疹だってさ。早めに受診して良かったよ。
Objective data:客観的情報
帯状疱疹。
併用薬:降圧剤 1 種(薬名不明)
Assessment:評価は? Plan:計画は?
解答・解説を見る
解答
Assessment:評価
バラシクロビルは肝で代謝されるが、活性代謝物であるアシクロビルは腎排泄型である。腎障害のある患者や高齢者では、体内貯留による精神神経症状や腎機能障害が発現する危険性が高いため注意が必要である。
Plan:計画
脱水による尿量減少は腎障害のリスクファクターとなるため、普段より多めの水で服用すること。また、服用中は水分補給を適宜行うことを指導する。次回、併用薬も確認すること。
説明事例
「このお薬は、帯状疱疹の原因となるウイルスの増殖を抑える作用があります。腎臓への副作用を避けるために、多めのお水で薬を飲むようにしてください。また、普段の水分補給も意識して行ってくださいね。体調がよくなったからといって飲むのをやめたりすると病気が悪化することがあるので、最後まできちんと飲み続けることが大切ですよ。」
解答に必要な医薬品情報
バルトレックス錠 500 の添付文書
【使用上の注意】
1.慎重投与
(2)高齢者[精神神経症状等があらわれやすい。]
2.重要な基本的注意
(7)本剤の活性代謝物であるアシクロビルの曝露量が増加した場合には、精神神経症状や腎機能障害が発現する危険性が高い。腎障害のある患者又は腎機能が低下している患者、高齢者においては、本剤の投与間隔及び投与量を調節し、患者の状態を観察しながら慎重に投与すること。なお、一般に精神神経症状は本剤の投与中止により回復する。
(8)腎障害のある患者又は腎機能が低下している患者、高齢者、水痘患者等の脱水症状をおこしやすいと考えられる患者では、本剤の投与中は適切な水分補給を行うこと。
5.高齢者への投与
本剤は、活性代謝物のアシクロビルに変換された後、主として腎臓から排泄されるが、高齢者では腎機能が低下していることが多いため高いアシクロビルの血中濃度が持続するおそれがあるので、投与間隔を調節し、患者の状態を観察しながら、慎重に投与すること。
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なぜ起こる?:バラシクロビルによる腎機能障害
バラシクロビルの活性代謝物はアシクロビルである。アシクロビルによる腎機能障害の副作用の発現メカニズムは、脱水などの尿量の減少により、腎尿細管におけるアシクロビルの濃度が溶解度を超えるとアシクロビルが結晶化を起こし、そのアシクロビルの結晶が尿細管を閉塞させることによって、腎後性腎障害を起こすことが考えられている(Peterslund NS. Scand J Infect Dis. 47: 80-84 (1985))。
腎機能は加齢による腎血管構造の変化とともに低下する。また加齢とともに尿細管機能も低下するため、尿濃縮能の低下や血清ナトリウム値の保持能の障害が起こることが知られている。このため、高齢者は、食欲不振や嘔吐・下痢症のような脱水などによって循環血漿量が低下すると、急性腎不全をきたす可能性が高いので、特に注意が必要である。