帝京平成大学 井手口直子先生の

在宅はじめてコミュニケーション

在宅業務をはじめたばかり、これから在宅業務を行うことを考えている薬剤師のみなさん。在宅のコミュニケーションに関する悩みに、井手口直子先生が答えます。

  • 第6回

    認知症患者さんとのコミュニケーション

    2018.09.26

在宅医療をコミュニケーションの視点で考えてきたこのコラムも第6回となりました。最終回となる今回は増え続ける高齢化の中、在宅現場でも避けては通れない認知症患者さんとのコミュニケーションについて考えてみましょう。

認知症高齢者は増加している

高齢者人口は増え続け、認知症有病者も増加の一途をたどっています。
2025年には65歳以上の高齢者のうち認知症を発症している人は730万人へ増加するとも推計されています。
私自身、在宅医療の現場で認知症あるいは認知症が疑われる高齢者の方は増えている実感があり、コミュニケーションの困難さや服薬状況の改善策に頭を悩ませることが度々あります。

認知症を知る

当然ながらまずは「認知症を知る」ということが必要です。
薬剤師は在宅医療の現場において、認知症患者さんや介護されているご家族、他職種とコミュニケーションをとる上で、知識として認知症の種類、疫学、病態、薬物療法等について理解しておく必要があります。

日本人に最も多いのが約6割を占めるアルツハイマー病認知症、次いで血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型などです。
「認知症」というのは病気の名前ではなく“症状”であり、原因となる疾患はパーキンソン病、甲状腺機能低下症など70種類以上あるといわれています。

認知症にみられる記憶障害や見当識障害、理解・判断力低下などの中核症状、それに加えて患者さん自身の元の性格や環境など、様々な要因からおこる行動・心理的な症状について知ることがまず大切です。例えば行動・心理的な症状には妄想、幻覚、興奮、易怒、無関心、うつなどの周辺症状(BPSD)があります。それらを知った上で、個々の患者さんの認知症の状態に応じた対応、その都度起こる様々なエピソードに対してどうコミュニケーションをとっていくかを考えていくことが必要です。

コミュニケーションは相互に成り立つもの

認知症患者さん宅を訪問して体調チェックや服薬状況の確認、服薬説明、配薬等を行う上では、薬剤師と患者さんと相互のコミュニケーションが重要となります。「この患者さんは説明しても分からないから細かいお話しはしない」、「会話にとりとめがなく同じことを何度も言うから適当に切り上げよう」、「とりあえず薬だけ配薬しておけば何とかなるだろう」、という思いから、薬剤師が一方的に自分の言いたいことを言って自己完結するようではいけません。

コミュニケーションの手段として非言語のコミュニケーション、すなわち表情や視線、患者さんとの対人距離、触れ合い方、薬剤師自身の雰囲気などを駆使して、それぞれの患者さんの状態に即した適切な手段を用いることが大切です。

実際に服薬支援をしていく上で

認知症患者さん宅を訪問して帰る道すがら、「説明したことやお話ししたことを理解されたのだろうか」、「次回訪問した際きちんと服薬できていなかったらどうしよう」、「患者さんは私に何か言いたかったのではないだろうか」など様々なことが頭をよぎります。

より良いコミュニケーションのためには、最初にも述べましたが、まずは原因疾患別の認知症について理解しておくことが必要です。
例えばアルツハイマー型認知症では、しばしばその場しのぎや取り繕いのような言動がみられることがあります。処方薬の飲み残しについて尋ねても笑顔で「ああ、飲まなきゃね、何で忘れたかなー」ということもあります。このような場合、「きちんと飲みましょうね、カレンダーにまた入れておきますよ」と背中越しにお話しするなどはいけません。きちんと正面を向き、自分の目線が患者さんと同じ高さで合っていることを確認して、ゆっくり丁寧にお話ししましょう。一包化した薬であればそれをしっかり目の前で見てもらい、服薬カレンダーにセットする場合はその様子を一緒に見てもらうのも良いでしょう。

レビー小体型認知症では幻視や精神症状の日内変動があることが多いので、比較的落ち着いている時間帯に訪問し、お話しをするなどの対応も良いでしょう。
画一的、一方的ではなく患者さんの立場にたって物事を考え、接していくことが重要です。第2回のコラムにも記しましたが、患者さんの暮らし全体を見て考えること、またどんな風に生きてこられたかなどを本人や家族から情報を得てコミュニケーションに生かしていくことで、それぞれの患者さんに合ったより良い薬物治療、服薬支援につながっていくのではないでしょうか。

コミュニケーションから得た情報と他職種連携

患者さんの様子や得られた情報は他職種と連携し、問題点は検討していく必要があります。逆に他職種からは、「薬がきちんと飲めてないようだがどうしたものか」と対応を依頼されることもあります。

抗認知症薬で内服困難や拒否がある場合は、内服ゼリー剤や外用貼付剤等への剤形変更を行うことで、家族等介護者が服薬させる負担を減らすことも可能です。
また昨今ポリファーマシーも問題になっており、認知機能障害を来す可能性がある医薬品について、薬学的判断から処方薬の見直しを医師に提案することも薬剤師ならではの技術です。

また認知症の早期発見、早期治療を行うことで、進行を遅らせたり、症状が軽度なうちから患者さんやご家族が理解を深めることで生活上の障害を軽減したり、その後のトラブルを減らすことが可能です。認知症にかかわらず普段の訪問時から患者さんの行動・言動・暮らしぶりをよく観察し、ちょっとした変化を見逃さないことが大事です。

認知症ケアの手法

認知症ケアに有効な「ユマニチュード」という知覚・感情・言語による包括的なコミュニケーションの技法があります。認知症患者さんの“人間らしさ”を尊重し、相互のコミュニケーションをとる上で大変意義深い技法です。関連した書籍を読むことや研修に参加してみて、患者さんとのコミュニケーションやケアに役立てることもお勧めします。

著者

井手口直子
帝京平成大学薬学部教授 博士(薬学)
専門はファーマシューティカルコミュニケーション
著書多数
ラジオNIKKEI「井手口直子のメディカルカフェ」のパーソナリティーも務める
武田和宏
株式会社 新医療総研 こぐま薬局 管理薬剤師
小児から高齢者まで幅広く地域医療で活躍する薬剤師
一般社団法人 日本在宅薬学会 エバンジェリスト

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