帝京平成大学 井手口直子先生の

在宅はじめてコミュニケーション

在宅業務をはじめたばかり、これから在宅業務を行うことを考えている薬剤師のみなさん。在宅のコミュニケーションに関する悩みに、井手口直子先生が答えます。

  • 第5回

    在宅での倫理問題について考えましょう

    2018.08.24

こんにちは!皆さんは、薬局で患者さんから「医師には言っていないのだけど、実はこの薬、飲んでないのよ」、「医師はこういうけれど、私はそうは思えないの」などと言われた経験はないでしょうか?そういう時、医師に伝えるべきか守秘義務を貫くべきか迷ったりしませんか?今回は倫理問題についてお伝えします。

守秘義務について考えよう

薬剤師倫理規定第9条(秘密の保持)において『薬剤師は、職務上知り得た患者等の秘密を、正当な理由なく漏らさない』と定められています。また、刑法134条(秘密漏示)では医療者以外の職種についても、正当な理由がなく業務上知り得た人の秘密を漏洩した場合は処罰されることを定めています。

しかし、注目すべき記述は『正当な理由がなく』の部分です。つまり、正当な理由がある場合はこの限りではないということになります。

ひとりで抱え込まない

在宅で何回か患者さんのお宅に伺うようになると、「聞いちゃいけないことを聞いちゃった」、「見ちゃいけないものを見ちゃった」という体験をするかもしれません。その時に、あなただったらどうしますか?「守秘義務があるがから誰にも言わない」と、自分の胸に固くしまい鍵をかけますか?それとも「ひとりでは抱えきれない」、「どう対応したらいいんだろう」と、誰かに打ち明け相談しますか?では、誰に相談しますか?

チームで最善のケアを目指しましょう

私たち薬剤師の使命は『患者のQOL改善という明確な成果を達成するための、薬物治療に関する責任を果たすこと(Hepler&Strand)1990』です。患者の利益を考え、患者、患者家族から得た信頼を裏切らないよう慎重に行動する必要があります。一方で、在宅ケアを必要とする患者さんは高齢者や疾患により適切な自己判断ができない方も少なくはありません。医師、ケアマネジャー、訪問看護師、ヘルパーなど他職種の方と連携するためには、情報の共有も大切です。

もしも、在宅業務の時に「知ってしまった患者さんの秘密、どこまで話していいの?」、「誰に話したらいいの?」と悩むことがあったら、1人で悩まないで、まずはケアマネジャーに相談してみてください。ケアマネジャーは在宅療養チームでは要の存在で患者さんの様々なことを詳細に把握しており、よき協力者になってくれることでしょう。

また、患者さんの症状や治療など医療的ケアについては、訪問看護師さんに話を聞いてみるとよいでしょう。医師より訪問頻度が高く、患者さんのバイタルや症状の日々の変化を知っています。お互い情報を交換した上で医師に相談することをおすすめします。

私の経験では、自分だけが知っているかと思っていたら、他の人も知っていたということがよくあります。「チーム内ではしっかり情報の共有を行い、チーム外には決して漏らさない」ということが大事なのではないのでしょうか。また社会的な信用を失わないよう注意も必要です。

相談したケース

私の最近の体験をお話しします。歩行困難な糖尿病(男性、80歳)の患者さん、奥さんと2人暮らしのご自宅に、いつものように訪問しました。私はお2人と会話をしながらおくすりカレンダーに配薬をしていました。そのうちご夫婦同士の会話になっていき、さらにご主人の声がだんだん大きく、怒り始めました。2人は言い争いを始め、ご主人はついに「うるさい!」と奥さんの頭を殴りました。

よく見ると半袖を着ていた奥さんの腕には内出血の跡があり、暴力は日常であると悟りました。その場は一旦おさまり、私はその場から失礼しましたが、その帰路、「見てはいけない場面を見てしまった、どうしよう。ご夫婦のことだし・・・」、「誰かに相談したほうが良いのか」、「言わないでおくか」と悩みました。

結果、担当のケアマネジャーに相談しました。彼女はすでに知っており、以前から家庭内暴力はあったようで、誰に相談しようか悩んでいたというのです。彼女は福祉の立場から、私は医療の立場から話し合い、認知症や精神科の専門医に相談することとなりました。ケアマネジャーはこのことを2人のお子さんたちにも伝え、サポートをお願いしてくれました。現在、この患者さんは認知症の治療も受け、症状も安定し穏やかに生活をされています。

患者さん不在の意思決定

患者さんの尊厳に焦点を当て、違う角度で倫理問題を考えてみるとどうでしょうか。
認知症の患者さんや高齢者(非認知症)など、判断能力が不十分だからと患者さんの意思や気持ちが尊重されないことが少なくはありません。また、末期癌の患者さんでも衰弱し自分の治療について、最期について明確に伝えることができなくなることもあります。一度、決めたことでも状態によっては変更したほうがよいこともあります。そのような判断は誰がするのでしょうか。患者は延命措置を望まないのに、家族は少しでも側にいて欲しいと医師に延命を望むケースなど。治療内容やこれからの暮らし方について患者と家族の意思の対立が起こることがあり、誰の意思や気持ちを優先するべきか、最善のケアは何なのかと悩むことがあります。

また、逆に「先生(医師)にお任せします」、「家族の言う通りでいいです」とおっしゃる患者さんもいます。十分な説明を受け、自分の意思で決定したのであれば問題はないのですが、その背景には希望を言うことへのためらいや家族への遠慮などがある場合もあります。

どのような場合でも、患者さんの尊厳を守ることは忘れてはいけません。また、患者家族の声にも耳を傾け、タイムリーに仲間とも情報共有し、在宅ケアのメンバーとして患者さんの意思決定のお手伝いが少しでもできるよう日々のコミュニケーションを大切にしましょう。

著者

井手口直子
帝京平成大学薬学部教授 博士(薬学)
専門はファーマシューティカルコミュニケーション
著書多数
ラジオNIKKEI「井手口直子のメディカルカフェ」のパーソナリティーも務める
宮木智子
株式会社 新医療総研 取締役 こぐま薬局
薬剤師でゲシュタルト療法のセラピスト
地域多職種連携の在宅業務で活躍

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