帝京平成大学 井手口直子先生の

在宅はじめてコミュニケーション

在宅業務をはじめたばかり、これから在宅業務を行うことを考えている薬剤師のみなさん。在宅のコミュニケーションに関する悩みに、井手口直子先生が答えます。

  • 第2回

    患者さんのお宅で何をする?

    2018.05.23

こんにちは!前回は在宅訪問するまでの準備と、訪問後までの流れを説明しました。
今回は、患者さんのお宅では、何をしたらよいのか、初回訪問の高齢者個人在宅をイメージして解説します。

訪問する前に意識しておくこととは

いきなりですが、まず薬剤師という意識を一瞬忘れてみてはどうでしょうか。
ぜひ、薬剤師を広義で捉え、医療従事者という意識で臨みましょう。在宅療養の患者様に介入していき、その他の職種の方と連携し共通言語で会話し、より良い医療を提供するためには、「薬」だけにとらわれないことです。広い視点で、訪問前の情報からその方がどんな暮らしをしておられるのかな、という思いを馳せるところから始まります。

初回訪問時の印象は大事

これから新たに介入が始まる患者様宅への訪問、つまり初回訪問は、とくに大切な時間でしょう。
これまで過ごしてきた家庭環境に、訪ねてくることがなかった医師をはじめ、訪問看護師、ヘルパーなどが続々と日時を変えて訪問してくることに対して、患者様やご家族はある種の不安感を感じておられるはずです。
そのような中で薬剤師が訪問するということの意味を、初回からご理解いただくことは難しいと思います。そこで、まず「患者様のお薬のことを中心に自分が責任を持って携わっていきます!」ということを伝え、“薬以外のことでも気軽に相談にのってくれる存在”だと思っていただけるような印象を与えることが今後の患者様、ご家族との良好な関係性を築く上で大切です。

薬剤師なのに薬の話をしない?

初めての在宅訪問は、とても緊張すると思います。しかし、用意した薬の入ったカゴなどを抱え、ドアホンを押し、お宅のリビングなどに通されたら、いきなり薬を並べて薬局の窓口で行っていたような、いわゆる「服薬指導」をしてはいけません。
我々は処方薬の説明を行い、お薬を渡して帰ることが目的ではないはずです。
より良い薬物治療を進めていくために、当該患者様がどのような暮らしをしておられるかを最初に知りましょう。

まずは、広く全体を見る

自分の視野をテレビカメラに例えると、まずは全体像をゆっくり眺め、徐々に薬にフォーカスを絞っていくことが、こと在宅療養患者様に対して適切な薬物療法を行うためには必要です。
患者様が現在どんな暮らしをしているのか。
例えば

  • 生活リズム
  • ADL (日常生活動作)
  • 家族構成、家族内での立ち位置
  • 家の構造、掃除の行き届き具合、食卓まわりの様子

などを良く観察し、患者様の暮らしを確認します。
この見えてきた生活像から、薬が、食事や排泄、睡眠、運動、認知機能に与える影響を想像し、薬物療法、服薬支援を進めます。つまり患者様の「暮らし」は「薬物治療の必要性や副作用の発現」を表します。患者様の「暮らし」に問題点や変化がある場合は、薬学的な知識から判断し、適切な処方提案などもできるでしょう。

今回処方された薬が全てではない

高齢の方で認知機能の低下や理解力が乏しい場合などでは、お薬手帳や会話の中だけでは他科受診や併用薬が分からない場合があります。
訪問して薬入れなどを拝見して初めて他の薬も服用されていることが判明するということは多々ありますし、在宅医からの診療情報提供書には併用薬までは書かれてないこともあるでしょう。
そのため、他科受診や併用薬をきちんと確認するには、患者様ご本人はもとより、ご家族、ケアマネジャー等から情報収集を行うことが必要です。とくに高齢の方は他科受診しておられるケースが多いので、初回訪問時はお持ちした薬以外にも服用しているものがないか注意してみましょう。
また、残薬を確認することも重要です。押し入れの中からどっさり飲み残しの薬やインスリン注射がでてきたり、湿布の山が出てきたりした、ということもよくあります。
このような残薬の確認のために患者様の薬入れや引き出しなどを見せていただきたいときは、必ずご本人やご家族に許可を得てください。その際、なぜ拝見したいのか、その目的をしっかり伝えましょう。
プライバシーにも配慮し、個人情報の取り扱いには十分配慮しましょう。

なぜ飲まない(飲めない)のか考える

服薬状況が悪いと分かった場合、その理由を考え対策を行いましょう。
まずはなぜ服用できてないかをじっくり考察してみましょう。一包化されてないシートのままの薬がたくさんある場合は、薬の整理がついてないのかもしれません。また、その薬が何の薬か分からないから飲んでない場合もあるでしょうし、あるいは服用して副作用で具合が悪くなったことがあるから飲んでないのかもしれません。慢性疾患の場合では、自覚症状がとくにないから飲んでないということもあるでしょう。また、服薬はしたいがうまく薬が飲みこめないなど嚥下機能の問題もあるかもしれません。
原因が分かれば、それに応じた対応が行えます。十分な服薬説明、日付印字や薬効印字、服用時点ごとの色分け等の一包化の方法、剤形変更、医師への処方薬整理の提案、薬カレンダー等の服薬支援ツールの提案など、さまざまな対応が可能です。
ここで大事にしなければならないことは、薬剤師主体で薬剤師の満足感だけで行わないこと。主体は患者様あるいは直接介護されているご家族ですから、しっかりコミュニケーションをとり、どのようにすれば薬物治療がうまく進むかを一緒に考えながら行いましょう。

次回のテーマは「ご本人とご家族に信頼されるために」です。お楽しみに!

参考;日本薬剤師会(編).生活機能と薬からみる 体調チェック・フローチャート 解説と活用(第2版).じほう.2011

著者

井手口直子
帝京平成大学薬学部教授 博士(薬学)
専門はファーマシューティカルコミュニケーション
著書多数
ラジオNIKKEI「井手口直子のメディカルカフェ」のパーソナリティーも務める
武田和宏
株式会社 新医療総研 こぐま薬局 管理薬剤師
小児から高齢者まで幅広く地域医療で活躍する薬剤師
一般社団法人 日本在宅薬学会 エバンジェリスト

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