帝京平成大学 井手口直子先生の

在宅はじめてコミュニケーション

在宅業務をはじめたばかり、これから在宅業務を行うことを考えている薬剤師のみなさん。在宅のコミュニケーションに関する悩みに、井手口直子先生が答えます。

  • 第3回

    患者さんとご家族に信頼されるために

    2018.06.22

みなさん、「cure(キュア)」と「care(ケア)」の違いについて考えたことはありますか?疾病の治癒と生命維持を主目的とするキュアに対し、ケアは慢性疾患や一定の支障を抱えても生活の質を維持・向上させ、身体的のみならず精神的・社会的な意味も含めた健康を保つことを目指している、という違いがあります1)

患者さんとご家族が感じる在宅ケアにおける戸惑い

在宅ケアでは、今まで治すために辛い治療にも耐え頑張ってこられた患者さんが、今度は、ご自宅に戻られ「QOL(生活の質)」の改善を図り、自分らしく生き抜くことを私たちはサポートしていきます。患者さんは入院前の自分とはもう違うかもしれません。自分1人でできていたことができなくなったり、慢性的な痛みと付き合わなくてはならなくなったりするかもしれません。以前の自分とのギャップに悩み、苦しむこともあるでしょう。それは、そばで介護するご家族も同じように感じています。また患者さんにどのように声掛けをしたらよいのか、手助けすればよいか戸惑われることも多いようです。患者さんやご家族に、今までの生活習慣や価値観、自分を取りまく人間関係等と、療養の間でうまく折り合いをつけ満足した日常生活を送っていただくためには、薬剤師としてどのように関わっていけばよいのでしょうか。それにはまず、患者さんとご家族から、信頼されることが必要です。

患者さんとのコミュニケーション

相手から「この人いい人だな」、「私のことわかってくれているな」と信頼されるためにはどうしたらよいのでしょうか?その方法の1つに傾聴があります。傾聴はカウンセリング技法でもありますが、一言で説明すると「心を傾けて聴く」、でしょうか。自分の話に興味をもって聴き、理解を示してくれる信頼できる人には本音も言いたくなるものです。
目の前の患者さんの語りに集中し、自分の全身を傾けて聴いていきましょう。患者さんの話の内容を理解することも大切ですが、話している様子(声の抑揚、スピードなど)や気持ちの変化も観察していく必要があります。そして、大切なのは「教えていただけないでしょうか」という謙虚な態度で相手の話を聴くことです。自分よりも長く生きてこられた「人生の先輩」と思うと自ずとそのような姿勢になることでしょう。患者さんのとの話の流れでは「8割は相手に話してもらい2割が自分の情報提供やサービスの提案」といった割合になるでしょうか。
医療サービスを提供する者として1番大切なのは、サービスを受ける側である患者さんの価値観や本音を充分に理解することです。そのためには、「それはどんな気持ちなんだろうか?」、「そう訴える本音はなんだろうか?」と患者さんが語る話の奥にある、本音や背景にも興味を持ち、薬剤師から質問し、確認しましょう。この繰り返しにより、自分の中で「なるほどね。だから~なのか」と腑に落ちる瞬間があります。これが相手を充分に理解できたときです。そのうえで患者さんの意思に沿ったサービスを提案するとよいでしょう。

ご家族とのコミュニケーション

在宅ケアでは、患者さんと一緒に生活をされているご家族との関係も大切です。
患者さんの状態を、ご家族と情報共有するようにしましょう。その際、守秘義務もあるため、患者さんから得た情報を薬剤師からご家族に伝える場合は、あらかじめ患者さんに「このことはご家族にもお伝えしてよろしいでしょうか」など許可を得ることを心掛けましょう。
そして、患者さんに聞かない方が良い内容、ご家族がご本人の前では話しにくいことなどは、薬剤師が先にキャッチし、場所を移動する、後ほど電話で話す、などの配慮が必要です。
薬剤師として「~した方が良い」、「~しない方が良い」など、ケアを行ううえで必要なことが出てくるかもしれません。その場合もご家族に対し「ご協力いただく」という姿勢でお願いすること忘れないでください。いくら患者さんのためとは言っても「やって当然でしょう」という態度では、ご家族から嫌われてしまいます。

軸を患者さん・ご家族の生活に合わせる

薬局の場合は、「順番におつくりしておりますので、お待ちいただけますか」など、患者さんに薬局の都合にある程度合わせてもらいます。
しかし、在宅医療の場合、患者さん(患者さんとご家族)の生活の場にお邪魔することになります。各お宅には、そのお宅ならではのやり方やルールがあります。そこに薬剤師の都合を入れ込んでもうまくはいきません。信頼を得ることはできません。
例えば、訪問時間です。患者さんやご家族も、はじめは遠慮して「いいですよ」と承諾されても、後々、ケアマネジャーなどに「薬剤師さんはいつも夕飯前に訪問するから困る」などとクレームになることもあります。そうならないためにも、患者さんの軸に合わせることが大切です。それには患者さんの生活の様子やルール、価値観、意思、気持ちなどを理解する必要があります。
とくに高齢の方は「~してもよろしいですか」、「今度から~しましょうね」と口頭で確認し、「はい」と返事があったにもかかわらず、「実は嫌だった」ということもあります。ともすれば、返事がないこともあります。返答がない場合は、NOであることが多いようです。YESであっても、その表情や言い方などで、本当はどうなのかを推測する必要もあります。

患者さんの不安や孤独を受け止める

在宅ケアでは、緩和ケアの患者さんなど、治癒が望めない方も少なくありません。患者さんは自分の将来や死についての不安や孤独を家族にも話せず、抱え、あなたにだけ話すことがあるかもしれません。そのときは、薬剤師という役割を一旦降ろし、ひとりの人間としてただただ受け止めてあげてください。何か良いことを言おうとしたり、聞こえないふりをしたりしないでください。その方は、何かして欲しいわけではなく、そばにいて聴いて欲しいだけなのです。自分の気持ちを表出したいだけです。こういった患者さんの辛い本音も、逃げないできちんと受け止められることが、大きな信頼につながるのです。

引用文献
1)平成27年6月、厚生労働省は『保健医療2035提言書』

著者

井手口直子
帝京平成大学薬学部教授 博士(薬学)
専門はファーマシューティカルコミュニケーション
著書多数
ラジオNIKKEI「井手口直子のメディカルカフェ」のパーソナリティーも務める
宮木智子
株式会社 新医療総研 取締役 こぐま薬局
薬剤師でゲシュタルト療法のセラピスト
地域多職種連携の在宅業務で活躍

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