神戸大学 平井みどり先生のコミュニケーションコラム

2.「好かれるコミュニケーション」「好かれないコミュニケーション」~東京タラレバ娘にみるコミュニケーションの形~

2017/05/19

話題になりました、TVドラマ「東京タラレバ娘」。原作は完結していませんが(ドラマ終了時)、ドラマは少し幸せの予感で終わりました。生涯未婚者の増加、出生率の低下、高齢化、と三題噺のように言われている現代日本の状況ですが、バリキャリ(?)アラサー女子の視点から「恋愛・結婚」に真っ正面から取り組んだドラマ、「現実を見つめろ!」という原作者の厳しめメッセージも含めて話題になるのももっともかなと思います。このドラマは、恋愛そのものというよりも様々なコミュニケーションの形をテーマにしていると、興味深く拝見していました。

ちょっと引っかかる人には、何か隠れた問題がある?

ドラマは芸能界とその周辺を描いていますので、タレントや業界人のコミュニケーションの有り様が描かれています。ファンにすぐ手を出すバンドマンとか、女性を武器にしてのし上がる例とか。その中で「好かれること」を拒絶しているような、異様な存在感の男性、KEYと、主人公の脚本家の女性の絡みがテーマになっています。

女子会ばかりやっていて、努力しなくてもわかり合える小さなサークルの中に安住しきっている主人公達に、嫌みと現実を投げつけ冷や水を浴びせる存在であるKEY。本当のことを言うと嫌われる、とはよく言いますが、性悪の意地悪オトコにしか見えない、超嫌みな存在が実は色々事情があって・・・というよくあるパターンですが、過去に解決できていない問題を引きずっていて、周囲を攻撃することでそれを見つめることの怖さから逃げている、というのはどこかリアリティがあります。

コミュニケーションが上手くいかない相手は、実は隠れた問題を抱えているということはしばしばありますが、ではそれを白日の下にさらせば、問題が解決できるかというと必ずしもそうではないところが難しい。第一本人がそれを「問題」と思わないように蓋をして、周囲を攻撃することで目をそらしていることも考えられます。ただ、嫌みや意地悪をしながらもKEYが主人公の倫子に絡んでいくということは、彼女に対する根本的な安心感と甘えがあり、自分の問題を受け止めてくれる存在として、本能的に選んでいる可能性があります。「好き」の反対語は「嫌い」ではなく「無関心」であるとはよく言われますが、関わりを持ってくるということはすなわち、コミュニケーションを求めていることの表れと言えるでしょう。

好感を持たれる秘訣は誤りをすぐに認める潔さ

このドラマでもうひとり印象的なのは、主人公・倫子の元弟子(出藍の誉れ、になっちゃいますが)のマミちゃんです。気軽に彼氏をとっかえひっかえ、二股三股も「仕事のための勉強」と割り切っている、芸術家の先鋭を行くような感性の持ち主です。変なプライドに足を取られず、余計なことを考えずに目的まっしぐらに進む行動力は、主人公たちアラサー女子から見るとまぶしい限りです。多少「それは言い過ぎ」「空気読めよ」的な言動はありますが、行動すべてが善意に基づくものだと、周囲のみんなはよくよく理解していますし、19歳という若さに、失敗したとしてもみんな許してしまいます。周囲の理解が得られる理由として、マミちゃんの行動力と人間に対する観察力、直感的洞察力が素晴らしいことを、皆が認めているということもあります。どんな場合でも自分の考えを臆さず述べ、間違っていた場合にはすぐに訂正する姿勢は、職場の同僚や上司から「ちょっとめんどくさいな」と思われながらも好感を持って受け入れられています。

相手の心の準備が整うまで待つ姿勢

筆者が一番感情移入してしまうのは、主人公の元同僚で以前に一度主人公に振られている早坂さんです。どこまでも相手を受け入れ認め、相手のペースに合わせる姿勢。相手の心の準備が整うまでいつまでも待つ、という姿勢でありながら、ここぞという時にはきっぱりと自分の立場を主張できる、頼りがいのある存在。家事が上手いなど女性が喜ぶことすべてできるし、原作では外見がダサくてパッとしないという設定ですが、ドラマでは高身長のイケメンでした(タレントさんだから当然か)。でも、最終的に振られてしまいます。それでも怒らず自棄にもならず、淡々といつも変わらずにこやかに、その後も主人公と仕事を続ける。ああもう本当に早坂さんかわいそう、でも立派だわ!と拍手を送りたいです。彼のように広い心と安定した情緒が持てるようになれればいいのですが。

いろいろな意味で興味深いドラマではありました。ちょっと引っかかる患者さんの対応には、何か隠れた問題があるんじゃないかな、という目で眺めてみることをおすすめします。また、職場ではマミちゃんの臨機応変な行動力と、直感力、過ちを認めるにやぶさかではない潔さ(それが成長に繋がることを彼女は知っています)はきっと役立つ事と思います。医療従事者は、「正しい」「患者にとってよい」と思われることをついつい押しつけてしまいがちですが、受け入れる側の準備が整っていないと、折角の善意が徒になる、ということはしばしば経験されることと思います。迅速な対応が求められる医療現場ですが、相手の準備が整うまで「待つ」早坂さんの姿勢、学ぶところも多いと思います。

著者:平井 みどり
京都大学薬学部卒・薬剤師。神戸大学医学部卒・医師。神戸大学にて医学博士取得。神戸大学医学部附属病院の教授・薬剤部長を経て、現在、神戸大学名誉教授。
日本薬学会、日本医療薬学会他に所属し、日本ゲノム薬理学会、日本ファーマシューティカルコミュニケーション学会会長を務めている。

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