神戸大学 平井みどり先生のコミュニケーションコラム

3.期待が裏切られたことによる落胆からの怒り

2017/06/23

先日銀行に行って、やっぱり嫌な思いをしました。銀行はこれまでの経験からできるだけ窓口に行かずに済ましていますが、口座を開く必要があったので、覚悟して行きました。その時はあまり待たずに、窓口の担当者も親切。確認に2週間かかると書いてるが、数日で済むと思います、連絡がいきましたらまたこちらにお越しください、とスムーズに終わりました。

電話連絡が入ったときに、うっかり何も考えずに行ったら、それほど混んでいる様子もないのに呼び出し番号が全く動かない。15分待っても微動だにしないので、フロア係の女性にどれくらいかかるか確認したが、わからないとの答え。「相談にお時間のかかるお客様が・・・」言葉は丁寧ですが、前がつかえてるんだから待つのは当たり前でしょ、という態度です。こちらも予定があるし、いつまで待てばいいのかわからないのに付き合っていられないから、その時は諦めて帰りました、思いっきり不機嫌な態度で。

そんな自分にウンザリなのですが、嫌な思いすることがわかってるのに油断していたのは自業自得。油断もありますが、前回スムーズだったから、今度も同じように行くんじゃないか、との期待が裏切られたことによる落胆→怒り、のありがちサイクルに陥ってしまったことが悔しい。特に怒りを助長したのは、フロア係の言葉だけの謝罪。状況に対する何の提案もなく、ただただ待てというだけです。

初めて行った店舗でそういう態度をされたら、怒るよりもその店には二度と行かない、でおしまいですが、今回は手続きを進めているわけですから、今更他の銀行にいくわけにもいかない、いや、別のところに行ってもいいが、そうするとまた一から手続きをしないといけないと思うと、ここで我慢するしかないかと、余計に腹立たしさがつのります。

サービス提供側と顧客の認識のギャップと顧客のあきらめ

自分が特別扱いされるほどのVIPだなんて思ってはいませんが、手続きを始めていて、ある種関係性が確立されているわけですから、何らかの配慮があってしかるべきではないか、と無意識的に期待をしている自分の幼稚さに気づいて、余計にがっかりしてしまうという構図です。

今回の教訓は
  • 1)期待は裏切られるということを常に意識しておけば、期待値は上がらず、裏切られた時の落胆も少ない。
  • 2)代替のきかない事項については、もともと自己決定の自由度が低いため、自由を制限されることに対する、根源的な納得いかない思いがある。
  • 3)形だけの丁寧さや、言葉だけの謝罪は怒りを余計に煽る。
  • 4)トラブルがあったときに、対応策の提案があれば、それなりに納得もできるが、何の提案もないということは、それをトラブルとは見なしていないことになる。
  • 5)客にとってのトラブルが、サービス提供側にとってはトラブルでもなんでもないこと、というのは根本的に認識が違うわけだから、コミュニケーションは成立しがたい。

2)~5)はサービス提供側と顧客の間に存在する根源的なギャップであり、それを埋める手段が顧客側にはありません。だから1)の自己防衛手段を取る以外に対応策がないわけです。銀行は銀行としての社会的役割があり、我々一般人への対応は極めて優先度の低い仕事であるなら、一般人が多くを期待することは銀行にとって不当な要求でしかないのでしょう。

怒りのトリガーを引かないために関係性構築と代替案提示を

このように考えてみると、それに近いことが医療の場でも起こっているのではないか、ということに思い至り、ぎょっとしてしまいます。上記1)はともかくとして、2)は、患者さんは健康上のトラブルを抱えていて、その分自由度や自己決定の範囲が制限されているわけですから、医療従事者や健康人に対する根源的な納得いかない思いがありそうです。納得いかない思いというのは、もやっとしたものですから、本人も気づいていない可能性が高く、そのため一見全く関係のないように見えることがトリガーになって、怒りに繋がることがあります。なぜそんなに腹が立つのか、本人も理由がわからない、という感じでしょう。何がその人のトリガーになるのかわからないので、防ぎようがないのですが、そうならないためにまずは関係性を築いて、同じ言葉を話すようにしておく必要があります。そのためのコミュニケーションのスキルを身につけるように、とは言われているのですが、実際問題として患者さんと共通言語を話しているかどうか確認するすべはなく、行き違いによりトラブルが生じる危険性は常にあります。

たまたま地雷を踏んでしまって患者さんが暴発した場合には「モンスター」と片付けてしまうわけですが、片付ける=思考停止=棚にしまって安心、という手順は、自分は安心できてもトラブル解決にはなりません。トラブルを増幅させないためにも、何かうまくいかない時にすかさず代替案を示すことは重要な手段だと思います。まあ、代替案が受け入れられるかどうかは不明ですが、少なくとも解決策を一緒になって考える手がかりにはなるかと思います。

銀行での嫌な経験から、他人の振り見て我が振り直せ、という言葉をもう一度嚙みしめました。

著者:平井 みどり
京都大学薬学部卒・薬剤師。神戸大学医学部卒・医師。神戸大学にて医学博士取得。神戸大学医学部附属病院の教授・薬剤部長を経て、現在、神戸大学名誉教授。
日本薬学会、日本医療薬学会他に所属し、日本ゲノム薬理学会、日本ファーマシューティカルコミュニケーション学会会長を務めている。

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