リクナビ薬剤師 リサーチセンター

16 ポリファーマシー対策の失敗事例と今後の対策

2019.03.29

ポリファーマシーが疑われる患者さんに気づいても、実際には様々な事情で適切な対応ができないことがあります。今回は、ポリファーマシー対策の具体的な失敗事例とともに、今後必要とされる対策や要望について、リクナビ薬剤師会員の皆さんに意見を伺いました。
(2018年11月21日~11月25日実施・有効回答数n=521)

ここでのポリファーマシーとは、多剤併用のなかでも、
1)多剤併用によって、患者さんの身体に有害事象を引き起こす可能性があるもの
2)有害事象は引き起こさないが、ベネフィットとリスクを考慮した上で不必要と判断される薬が処方・投与されているもの
とします。

1.リクナビ薬剤師会員のポリファーマシー対策の失敗事例

日常の業務でポリファーマシーに気づいた時、思うように対策が取れないケースは少なくありません。その原因はどこにあったのか、リクナビ薬剤師会員の皆さんが実際に失敗した事例をみてみましょう。

皮膚・アレルギー系疾患

<薬品名または薬効分類>
ヒルドイドソフト軟膏
<ポリファーマシーが起こった原因>
患者さんの要望

複数の診療科から同じ軟膏を処方されていて、合計したら全身に塗布したとしても使用期間中に使い切れないような量だった。しかし患者さんから「余計なことをするな」と問い合わせを拒否され、対応できなかった。

(30歳代・男性・調剤薬局勤務)

<薬品名または薬効分類>
抗アレルギー剤、小青竜湯
<ポリファーマシーが起こった原因>
患者さんの要望

抗アレルギー剤3種類に加えて小青竜湯も処方されており、ポリファーマシーが疑われた。患者さんに確認したところ、症状がひどい時は追加でたくさん飲みたいから、と疑義照会を断られた。

(50歳代・男性・調剤薬局勤務)

泌尿器系疾患

<薬品名または薬効分類>
フロセミド
<ポリファーマシーが起こった原因>
DO処方

術後のむくみにフロセミドの服用を開始した患者さん。むくみが収まって1年が経過しても処方され続けていた。1年の間に尿酸値が4.9から8.2までゆっくり上昇していたため問い合わせたが、飲み続けるようにと医師から回答された。現在、その他にもスピロノラクトンなど8剤服用中である。

(40歳代・女性・ドラッグストア(調剤併設)勤務)

精神・神経系疾患

<薬品名または薬効分類>
安定剤
<ポリファーマシーが起こった原因>
DO処方、患者さんの要望

高齢の患者さんがエチゾラムを1日3回投薬されていた。認知機能の低下や転倒リスクが高くなるため中止が望ましいと考え、主治医に相談したところ中止可能の指示を受けた。しかし患者さん自身は、長年内服している薬のため継続したいと希望。副作用について話をしたが聞き入れてもらえず、結局中止できなかった。

(30歳代・男性・病院勤務)

<薬品名または薬効分類>
抗精神病薬
<ポリファーマシーが起こった原因>
処方カスケード

多種類、高用量の薬を併用しており、副作用症状が出ていた。副作用に対する薬も飲んでおり、減量が必要ではないかと問い合わせたが、医療機関側から必要な薬であるため減量はできないとの回答があった。医師、患者双方が承知の上での治療であるため、今後は疑義照会しないようにとの指示を受けてしまった。

(30歳代・男性・調剤薬局勤務)

生活習慣病(心疾患、高血圧症、糖尿病など)

<薬品名または薬効分類>
降圧薬、パナルジン
<ポリファーマシーが起こった原因>
患者さんの要望

2ヵ所の内科にかかっている高齢の患者さんが、両方から降圧剤と抗凝固剤を処方されていた。さらにビタミン剤なども含めると合計で約20種類の薬を飲んでいた。「どちらかでまとめてもらった方が良いのではないか」「中止しても良い薬もある」と提案したが、「どちらの先生にも診てもらいたいし、薬が減るのは不安」と断られた。

(30歳代・女性・調剤薬局勤務)

消化器系疾患

<薬品名または薬効分類>
胃粘膜保護薬など
<ポリファーマシーが起こった原因>
患者さんの要望

患者さんの家族から「薬が多いから減らせないか」と相談を受けたため、漫然投与が疑われるものなど数種類について、削減できないか処方医に情報提供を行った。処方医から患者さんに減薬の意向を直接確認したところ、患者本人は減らしたくないとの要望があり、そのまま継続となった。

(20歳代・男性・調剤薬局勤務)

呼吸器系疾患

<薬品名または薬効分類>
去痰薬
<ポリファーマシーが起こった原因>
患者さんの要望

風邪で受診。医師に痰が絡むと相談した結果、ムコダイン錠、ムコソルバン錠、麦門冬湯の3種類を処方された。去痰のためにこんなに必要なのかと疑義照会をしたが処方は変更されなかった。患者さんからの申し出に医師がやむなく処方した様子だった。

(30歳代・女性・調剤薬局勤務)

2.薬剤師、医師、患者に求められる今後のポリファーマシー対策

ここまでご紹介した通り、ポリファーマシー問題の背景としては、患者さんご本人の希望が大きく影響する場合が多いように見受けられました。では薬剤師としてはどのような関わり方が求められるでしょうか。「ポリファーマシーを解決するには、どんな対策が必要だと思いますか?」の質問に、リクナビ薬剤師会員の皆さんが答えてくれました。

薬剤師・薬局に求められること

  • 薬剤師の知識向上と、医療従事者同士の信頼関係の強化。疑義照会はミスの指摘になりかねないので、伝え方に細心の注意が必要。相手を尊重したかたちで伝える必要がある。
    (30歳代・男性・行政機関/学校勤務)
  • お薬手帳の完備と、しっかりとしたチェック。かかりつけ薬局を持ってもらい、1つの薬局で全ての服用薬を管理することを患者さんに促す。
    (50歳代・女性・調剤薬局勤務)
  • 薬剤師が積極的に、患者さんあるいは医師にポリファーマシーの問題点を話し、なぜその薬が不要なのかを服薬指導の際に誠実に伝える。
    (30歳代・男性・調剤薬局勤務)
  • 患者さんが主訴を言いやすい状況・関係を作る。特に高齢の患者さんは医師に遠慮して、実際の服用状況や薬による不具合を言えないことが多いと感じる。
    (30歳代・女性・医薬品関連企業勤務)
  • 高齢の患者さんは、今でも医師にすべて任せておけば安心という意識が強く、薬剤師がどんなにポリファーマシーの危険性を説明しても受け入れてもらえない方が多い。継続的なコミュニケーションをとり、具体的な例を用いて根気強く啓蒙していく必要がある。
    (40歳代・女性・調剤薬局)

医師・医療機関に求められること

  • 患者さんの要望に応えておけば良いという考え方を変えてもらいたい。風邪に抗生剤、疲れにビタミン剤、もっと強い睡眠薬、もっと強い鎮痛剤…と要望に応えれば応えるほど薬が増え、副作用が増え、副作用に対する薬が増えてしまう。
    (30歳代・女性・調剤薬局勤務)
  • 薬の副作用と、多剤服用による弊害を診察室で十分に説明してほしい。患者さんと家族の理解度を加味した上で、処方の必要性を考え直してほしい。
    (30歳代・男性・病院勤務)
  • 罪悪感があるため別の病院にもかかっていることを、医師に言えない患者さんが多い。病院では、他院への受診や服用薬をきちんと確認するのが当然で、それを悪く思う必要は全くないということを啓発してほしい。薬局でしかお薬手帳を提示していない患者さんが多いが、病院でもお薬手帳を活用するべき。
    (40歳代・女性・現在は就業していない)
  • 実際のところ、薬剤師から医師に「この薬は不要ではないか」と伝えるのはとても難しい。「そんなことは医師が考えることであり、薬剤師に言われなくても分かっている」と何度も医師に怒鳴られたことがある。薬局と病院間の信頼関係が崩れる可能性もあるため、薬剤師側の働きかけだけでは限界がある。医師側の意識改革の徹底が必要だと感じる。
    (30歳代・女性・ドラッグストア(調剤併設)勤務)

患者に求められること

  • 患者さん自身の薬に対する理解を深めること。自分が何の病気で、何のためにこの薬を飲んでいるのか、まずは知ろうとすることが大切だと思う。
    (20歳代・女性・医薬品関連企業勤務)
  • 薬がほしい、飲んでみたい、念のため、予備にしておきたい…という考え方をなくすこと。これらは保険制度の悪用であり、税金の無駄遣いであることを認識してほしい。
    (50歳代・女性・調剤薬局勤務)
  • 患者自身が薬をほしがらないこと。また、なるべく複数の病院にかからないことも大切。
    (50歳代・女性・医薬品関連企業勤務)
  • 診察時には必ずお薬手帳を持参すること。かかりつけ医が複数あるときは、医師同士の情報共有をしてもらうこと。かかりつけ薬局を作り、薬局は1ヵ所だけにすることが望ましい。
    (40歳代・男性・病院勤務)

新しい制度やシステムに求められること

  • 薬が多いことは、体にも医療費の観点でも良いことではないと、テレビCMなどで宣伝してもらいたい。
    (40歳代・女性・調剤薬局勤務)
  • すべての処方内容が、すべての病院・薬局で見られるようにすること。今の制度では患者の申告やお薬手帳がないと服薬状況が分からず、薬が重複していても気付けない。個人情報は重要だが、命に関わることは開示しても良いのではないか。
    (30歳代・女性・調剤薬局勤務)
  • お薬手帳は1人1冊とし、院外処方箋を出していないクリニックにも内容確認と記載を義務付けるべき。DO処方でも残薬がわかるように記載を義務付け、患者さんが同じ症状で複数の医療機関から薬をもらわないように徹底すること。
    (50歳代・女性・病院勤務)
  • 健康保険証のICチップで、受診医療機関と処方内容が把握できるようにするとよい。
    (50歳代・女性・調剤薬局勤務)

3.すべての関係者がポリファーマシー問題に真剣に向き合う必要性

ポリファーマシーは、時として命に関わる重要な問題でありながら、薬剤師サイドからの働きかけだけでは限界がある、と多くの会員が感じています。

今回のアンケート結果の通り、この問題の解決には、患者はむやみに多くの薬を欲しがらない、医師は患者に求められるままに薬を処方しないなど、患者と医師、両サイドの意識改革が必須です。

しかしポリファーマシーが起こりやすい高齢の患者を中心に、患者サイドの意識改革は非常にハードルが高いと言えます。薬剤師からの積極的な働きかけと同時に、大規模な啓蒙活動の推進や、システムや制度改革による情報共有・開示など、行政主導の支援策も強く求められています。

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