そもそも私は、薬剤師を志望していたわけではありませんでした。高校生の頃に生物学に興味を持ち、大学で細菌学や微生物学を学びたいと思ったのです。受験するにあたって大学や学部をいろいろ調べた結果、自分がやりたい研究にもっとも近いことを行っていた京都薬科大学に進学することに。細菌学や微生物学が、抗生剤の研究と切っても切り離せない関係にあることを知ったのです。薬剤師という仕事ではなく、生物学に興味を抱いたことが、私をこの道へ導いたと言えるでしょう。
薬剤師の資格を取得して大学を卒業してからは、大学院に進学。さらに抗生剤の研究を進めることにしました。大学院では、抗生剤に関するさまざまな文献を解析し、その結果を研究会などで発表。そのプロセスが似ていることから、最初の就職先として選んだのが製薬会社の学術職でした。薬に関するさまざまな資料を収集、管理し、必要に応じてMR(営業)や病院に提供する仕事。ただ業界の流れとして、学術職の仕事は次第にMR(営業)自身が担うようになりつつありました。そこで、これまでの経験を活かして活躍できる新たな仕事として「DI業務(Drug Information Services)」に注目。社会人4年目に、別の製薬会社へと転職したのです。
「DI業務(Drug Information Services)」とは、一言で言うと医薬品の情報管理業務のこと。処方や副作用のことをはじめ、医薬品にまつわる情報は膨大な量にのぼります。学会のガイドライン改訂で、ある疾患に対する治療方針が変更になるなど情報も常に進化。ですから製薬会社では、医薬品に関連する情報を国内外のデータベースなどから収集し、管理するという仕事が必要不可欠なのです。
管理している情報を医師や消費者、社内のMR(営業)へ提供していくことも、重要な業務のひとつ。日々、電話で医師や消費者からの薬の処方や副作用などに関する問い合わせに対応し、MR(営業)が営業活動に役立てるための資料作成なども行っています。
医薬品情報のスペシャリストとして、収集した正確な情報を迅速に伝えていく。それこそが、私の使命だと考えています。薬剤師の活躍の場として、DIの世界はあまりメジャーではありません。けれども、情報の管理や提供を通じて、医薬品の使用に関する安全性を守る役割を担っている。「製薬会社の顔」としての自負を胸に働けることが、この仕事の大きなやりがいです。
私たちは医療現場から遠く離れた存在ですが、医療の最前線に貢献できていると実感できる機会も多数。今まで使用したことがない薬を使うことに不安を感じている医師に、文献や症例報告など客観的なデータを添えて、丁寧にアドバイスを行ったことがあります。後日、「おかげで患者さんが助かったよ」とご報告をいただけたときは、自分の存在価値を強く実感することができました。
日々心掛けているのは、ニーズに100%答えられない状況であっても、必ず有益な情報を提供して差し上げることです。たとえば、医師から求められた「70歳以上に薬を投与した場合の臨床データ」が存在しなかった場合、「60歳以上のデータならあります」といって代替案を提供する。データがないからといって「ありませんでした」で済ませるのではなく、どうすれば少しでもお役に立てるのかを考えて行動していくことが大事だと考えています。
DI業務を経験すると、医薬品に関する最新かつ豊富な知識を身につけることができます。ですから、「常に新しいことを吸収しながら、貪欲に学び続けたい」という好奇心の強い方に向いているでしょう。また、豊富な知識を活かして医療現場にも大きく貢献していける。とても働きがいのある仕事ですので、ぜひ多くの方に興味を持ってもらいたいと思っています。
Y・Kさんのある一日
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- 09:00
- 出勤
- MR(営業)からの問い合わせメールの対応や、国内外のデータベースを検索して情報収集。
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- 10:00
- 社内会議
- 月2回、収集した最新情報をチーム内で共有する会議に参加。学会に参加したメンバーから業界動向の報告を受けることも。
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- 12:00
- ランチ休憩
- リフレッシュも兼ねて、会社の外で食べることが多い。休憩時間は1時間。
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- 13:00
- 情報収集と問い合わせ対応
- 情報収集の続きと医薬品に関する電話での問い合わせに対応。多い日には、医療関係者から20~30件の問い合わせが入ることも。
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- 18:30
- お仕事終了
- 定時は18時だが、問い合わせに関する調べ物などで、30分ほど残業することがあるという。