14 セルフメディケーション推進の流れとどう向き合う?
2018.10.26
増え続ける医療費の削減と、国民の健康維持・疾病予防を目指し、政府主導でセルフメディケーションを推進する動きが強まっています。2017年には一定の条件のもと、スイッチOTCにかかった費用を所得控除の対象にできる「セルフメディケーション税制」も施行されました。
しかし国民への浸透はまだまだ。今後、セルフメディケーションを広く世の中に普及させるためには、個人への服薬指導や普段の健康管理など、現場の薬剤師の働きかけが欠かせません。リクナビ薬剤師会員のみなさんはセルフメディケーションとどう向き合っているのでしょうか?「推進すべき」だけど「不安がある」、薬剤師のみなさんの複雑な胸の内をのぞいてみましょう。
(2018年9月11日~9月18日実施・有効回答数n=965)
1.患者の症状が軽い場合であれば
85%以上がセルフメディケーションに賛成
「セルフメディケーションをした方がよいと思いますか?」という質問に対して、患者の症状が軽い場合については、86.2%の人が「とてもそう思う」「そう思う」と回答しました。
Q.患者さんが身体の不調を感じたときに、軽い症状の場合は薬局やドラッグストアで薬を購入して、セルフメディケーションする方がよいと思いますか。
「とてもそう思う」「そう思う」と答えた理由としては、「医療費が削減できる」、「医師不足・病院混雑を緩和できる」という内容のコメントが非常に多くありました。また患者にとっても、「病院での待ち時間を節約できる」、「待合室での二次感染のリスクを減らせる」、「病院が開いていない時間帯でも薬を入手できる」、などのメリットがあるという意見が目立ちました。
■「とてもそう思う」「そう思う」
- 日本には国民皆保険という、素晴らしい保険システムがあるのはよいが、そのため、他の国に比べて、すぐに病院に行く傾向がある。 まず、OTC医薬品で試して様子を見てから病院を受診しないと、高齢化社会なので、国の医療費が高くなるばかり。(医薬品関連企業/40歳代前半・女性)
- 病院やクリニックの受診は会社や学校を休まないといけない場合が多いので、症状が悪化してから受診する人も多い。 薬剤師がしっかりと知識をもち、薬局で対応し、症状により、受診を勧めた方がよいと思う。 医療費の削減にも繋がる。 薬剤師の意識や学習意欲にも繋がる。(調剤薬局/60歳代前半・女性)
- どんなに軽い症状でも病院に行き、医師を頼ってしまうのはどうかと思う。医者はそうした患者に時間を取られてしまう。本当に医療が必要な人へしっかりと診察や検査等の時間をかけてあげてほしい。(調剤薬局/30歳代前半・男性)
- 病院で診察を受けてから薬局に行って薬をもらう移動を考えると、ドラックストア1つで済ませるのは簡単で経済的だと思う。 病院からだと何種類かの薬をもらうが、症状にあったOTCなら1種類で済まされることが多い。(ドラックストア:調剤併設/20歳代後半・女性)
一方、「全く思わない」「あまり思わない」と答えた理由としては、「治療が遅れ重症化する可能性がある」、「薬剤師と患者の知識不足で正しい判断ができない」、「薬剤師の責任問題となるのは避けたい」など、セルフメディケーションに対する不安の声が多く見られました。
■「全く思わない」「あまり思わない」
- 例えば風邪ならば市販薬で充分だが、風邪に似た症状の別の病気であれば市販薬で様子を見ている間に治療のスタートが遅れてしまう可能性がある。保険財政だけを考えればセルフメディケーションの推進は重要だろうが、現場の薬剤師や登録販売者に診察の必要不必要が判断できないのであれば、医療として風邪の診断も医師の担当が望ましい。(調剤薬局/40歳代後半・男性)
- 医療費の削減とその後の治療を天秤にかけると、必ずしも軽い症状だからOTCで済ますことがいいとは限らない。 健康サポート薬局の講習で行われる臨床が出来るなら良いと思います。(ドラッグストア:調剤併設/40歳代後半・男性)
- 市販薬を服用する事で疾病の治療が遅れる可能性がある。 薬剤師が市販薬を勧めて治療が遅れたら責任問題。 診断は医師がすべき。(調剤薬局/40歳代後半・女性)
2.約3割がセルフメディケーションを
「積極的に勧めたいとは思わない」
上記の質問では85%以上が「セルフメディケーションした方がよいと思う」と答えたにも関わらず、「患者さんに積極的にセルフメディケーションを勧めたいと思いますか?」という問いに対しては、「とてもそう思う」「そう思う」が15%も減少してしまいました。
約3割の人が「積極的に勧めたいとは思わない」と回答した理由はどこにあるのか、詳しく意見を見てみましょう。
Q.患者さんに積極的にセルフメディケーションを勧めたいと思いますか。
■「とてもそう思う」「そう思う」
- 相談時において受診勧告対応の接客が出来る環境という前提ではあるが、患者側の選択肢の幅が広がるのはメリット。また、昨今の診療報酬改訂により大手ドラッグストアの大半は基本料が下がり厳しい状況となっており、その利益補填のためには利幅の大きいOTCの積極的な販売も必要である。(ドラッグストア:調剤併設/30歳代前半・男性)
- ドラッグストアでも相談にのってくれる販売員がいることを周知してもらい、病院が開いていない時間帯でも相談にのれる場所があることを知ってほしい。(ドラッグストア:調剤併設/30歳代前半・女性)
- 自分で選んで買うことや使うことは、健康への意識改革だと思う。もちろん専門家にアドバイスを求めるのは良いことだが、自分で選択しているという意識を持ってもらうほうが、実際よく効くと思う。(医薬品関連企業/40歳代後半・女性)
- 本来、薬剤師は相談役として人体に関与する化合物全般を扱う職種なので、調剤に偏在した現場に強い違和感を覚えるから。業界として全般的に仕事の質を向上させないと必要とされない職種に成り下がると思っている。(調剤薬局/30歳代後半・男性)
■「全く思わない」「あまり思わない」
- 薬や病気のことは医療関係者に……という今の日本の空気では難しいと感じる。医療関係者はもちろんだが患者、国民自身も自分の健康についてもう少し知識を持ってから、セルフメディケーションということになると思う。(調剤薬局/30歳代後半・女性)
- 現在、患者の薬剤に対する理解は低いように思う。単に制度の活用を案内するだけではなく、薬剤師が薬剤をもっと知ってもらえるように介入し、患者が正しく薬剤を選択できるようになればセルフメディケーションの体をなす。(病院/20歳代後半・男性)
- 患者の立場からすれば、医師の診察を受けることで安心できるという面も大きいと思うので、こちらから積極的には言えない。責任問題に発展する心配や、病院の利益の問題もある。患者さんから問われた場合は、説明すると思うがケースバイケース。(病院/50歳代後半・女性)
- 個人的には勧めたいが、医院の門前のため医院との関係が気になる。会社的には難しいのではないか。(調剤薬局/50歳代前半・女性)
- 病院に行く必要がある症状か、セルフメディケーションで済ませてよいのかを判断する知識が自分にない(調剤薬局/40歳代後半・女性)
患者側の理解・知識不足や、適切な治療が遅れることを懸念する声が最も多かったほか、病院や医師への配慮や、勤務先の方針など、薬剤師を取り巻く医療業界ならではの外部要因を挙げるコメントが目立ちました。
また一方で、現場の薬剤師にセルフメディケーションに対応できる知識や時間がない、患者に万が一のことがあった際に責任が持てないので勧められないという内部要因を懸念する声も多くありました。
3.実際には半数近くの薬剤師が
患者に直接説明する機会がない
Q. 患者さんにセルフメディケーションを説明する機会はありますか。
調剤薬局とドラッグストアに勤務する薬剤師を対象に、「患者さんにセルフメディケーションを説明する機会はありますか」と尋ねたところ、半数近くの43.8%が「ない」と回答しました。
大半の人がセルフメディケーションを推進すべきだと考えているものの、実際に自分が現場で患者に進める機会はそれほど多くないのが現状のようです。
また、勤務先別に詳しく見てみると、調剤併設のドラッグストアでは74.4%が「はい」と答えていますが、調剤薬局では「はい」は51.9%にとどまります。患者とのコミュニケーションの深さや頻度など、勤務先の事情や営業形態によっても大きな違いがあると言えます。
4.薬のスペシャリストとして
患者の最初の相談相手に
膨れ上がる医療費の問題を解決するため、セルフメディケーションの普及は避けては通れない重要課題です。しかし医療・薬の選択は、ときには人命に関わる問題であり、安心安全であることや適切な判断が最優先。セルフメディケーションを推進すべきと理解していても、安全性や医師との関係、職場の事情などで安易に患者に勧められないと考える薬剤師も多くいるのが現状です。
患者側には、医療費の増大を我が事と捉え、普段から自分で自分の健康を管理し、ちょっとしたことですぐに医師や病院に頼りすぎないよう、セルフメディケーションの理念を理解してもらう必要があります。
薬剤師は、今まで以上に豊富な知識を身につけ、地域の患者との信頼関係を築き、薬のスペシャリストとして患者の最初の相談相手になれるよう努力していくことが求められていると言えるでしょう。