リクナビ薬剤師 リサーチセンター

15 ポリファーマシー対策の成功事例

2019.01.11

高齢者の増加に伴い、複数の医療機関や診療科を同時に受診している患者さんが増え、ポリファーマシーは深刻な問題となっています。一方で、そうした患者さんの服薬状況は、医師も薬剤師も、本人でさえ把握するのが難しいのが現状。リクナビ薬剤師会員の皆さんは、どんな時にポリファーマシーに気づき、対処しているのでしょうか。今回は、その成功例をご紹介します。
(2018年11月21日~11月25日実施・有効回答数n=521)

ここでのポリファーマシーとは、多剤併用のなかでも、
1)多剤併用によって、患者さんの身体に有害事象を引き起こす可能性があるもの
2)有害事象は引き起こさないが、ベネフィットとリスクを考慮した上で不必要と判断される薬が処方・投与されているもの
とします。

1.ポリファーマシーが疑われる患者さんは平均27.3%
気づいたきっかけ第1位はお薬手帳

下のグラフは「あなたが接する患者さんのなかでポリファーマシーの患者さん、またはポリファーマシーが疑われる患者さんはどの程度いると思いますか?」という問いに対する答えです。「普段患者さんに直接関わりがない」と答えた人を除くと、平均で27.3%の患者さんがポリファーマシーである、またはそれが疑われるという結果になりました。

今回のアンケートに回答してくれた方の体感値ではありますが、患者さんの4人に1人がポリファーマシーの可能性を抱えているということになります。ポリファーマシーの問題は他人事ではなく、「自分にも十分起こりうることだ」と患者さんに当事者意識を持ってもらえるよう、啓発することが大切です。

Q.あなたが接する患者さんのなかでポリファーマシーの患者さん、またはポリファーマシーが疑われる患者さんはどの程度いると思いますか?印象として感じる割合をお選びください。

ポリファーマシーに気付いたきっかけとしては、「患者さんのお薬手帳を見て」が最多となりました。調剤報酬改定によってお薬手帳の持参率が変わってしまうなどの課題もありますが、薬の併用による有害事象を未然に防ぐことができる大切なツールであることが改めて見えた結果になりました。

何よりも患者さんの健康のためだと理解してもらうための丁寧な説明や、お薬手帳を忘れずに持ってきてもらう工夫などが必要といえるでしょう。電子お薬手帳も徐々に普及しているため、患者さんの状況に合わせて使用を勧めるのもいいかもしれません。

続いて「患者さんの服薬状況や残薬を見て」「患者さんと話していて」「医療機関からの処方箋を見て」という順になっています。患者さんとの会話や、医療機関からの処方箋を見て気づく場合も多く、お薬手帳がない場合でも患者さんとのコミュニケーションや、処方箋と服薬状況を照らし合わせることで十分発覚しうるという結果になりました。

Q.ポリファーマシー(かもしれない)と気付くきっかけは何が最も多いですか?2つまでお選びください。

2.リクナビ薬剤師会員が実際に行ったポリファーマシー対策の成功事例

今回のアンケートでは、ポリファーマシー対策の具体的な成功例についてお聞きしました。どんなときにポリファーマシーに気づき、どのような対策をとっているのでしょうか。症状の分類別に詳しく見てみましょう。

生活習慣病(高血圧、糖尿病など)

<薬品名または薬効分類>
ボグリボース0.3mg錠
<ポリファーマシーが起こった原因>
処方カスケード、DO処方

お腹の張りや便秘、下痢を訴える患者さんに下痢止めと下剤が頓服で処方されていた。ボグリボースによる腹部副作用が疑われたため、医師に説明して、他剤に変更となった。それに伴い頓服処方も不要となった。

<薬剤師>30歳代・女性・調剤薬局勤務

<薬品名または薬効分類>
糖尿病薬
<ポリファーマシーが起こった原因>
処方カスケード、DO処方

浮腫があり利尿剤を処方されていた患者さん。 お薬手帳を拝見すると、インスリン抵抗性改善薬とともに循環器の薬も服用中だったため、医師に相談してインスリン抵抗性改善薬を中止した。

<薬剤師>40歳代・男性・病院勤務

心疾患

<薬品名または薬効分類>
ジゴキシン
<ポリファーマシーが起こった原因>
処方カスケード、患者さんの生理機能の低下

心疾患既往で以前からジゴキシン等を服用中の高齢の患者さん。最近不整脈があり、他院でベプリコールが追加されたことをお薬手帳で確認。 聞き取りを行ったところ、尿量が少ないためドラッグストアで利尿効果のあるサプリメントを買ったとのこと。悪心があったとも話されたため、診察の際に血液検査を行ったか確認したところ、今日は薬の処方だけで検査を行っていないとのことだった。
利尿作用のサプリメント併用後の不整脈、悪心症状からジギタリス中毒の可能性を視野に入れ、処方元の医師に疑議照会。一度病院に戻り、血液検査をしてもらったところ、ジギタリス中毒疑いのため、処置。ジゴキシン減量と、追加されていたベプリコールが削除となった。

<薬剤師>30歳代・女性・調剤薬局勤務

<薬品名または薬効分類>
鎮痛剤
<ポリファーマシーが起こった原因>
患者さんの生理機能の低下

心不全の患者さんに打ち身の痛み軽減目的でNSAIDsと粘膜保護剤が処方されていた。のちに浮腫が出てきたため、利尿剤が増量された。NSAIDsは心不全患者の浮腫を悪化させることがあるため、医師に疑義照会してNSAIDsと粘膜保護剤を中止してもらい、利尿剤も減量になった。

<薬剤師>50歳代・女性・ドラッグストア(調剤併設)勤務

精神・神経系疾患

<薬品名または薬効分類>
ビ・シフロール
<ポリファーマシーが起こった原因>
処方カスケード、医師が患者の訴えを聞き逃した可能性あり

精神科から処方された向精神薬を数種類服用していた患者さん。震えに対しビ・シフロールが追加になっていたが、ろれつが回らないという訴えがあった。すでに震えは治っており、セカンドオピニオンで受診した脳神経外科でもビ・シフロールは必要ないと言われたとのこと。震えが治った旨は精神科受診時にも伝えたようだが、そのまま処方されていたため薬局からも医師に疑義照会した結果、ビ・シフロールが削除となった。

<薬剤師>30歳代・女性・ドラッグストア(調剤併設)勤務

<薬品名または薬効分類>
ソラナックス、ドグマチール
<ポリファーマシーが起こった原因>
DO処方

薬物依存傾向の患者さんが、一度にたくさん服用してしまったとケアマネジャーから連絡があった。シートで渡していたものを分包して渡すようにしたところ誤飲はなくなった。しかし、ろれつが回らない、また日中の眠気が継続したため、医師と相談の上、段階的にソラナックス、ドグマチールを削除し、体調が落ち着いた。

<薬剤師>40歳代・女性・調剤薬局勤務

整形外科系疾患

<薬品名または薬効分類>
解熱鎮痛剤
<ポリファーマシーが起こった原因>
おくすり手帳を持参していなかった

内科系疾患でかかりつけのA病院から腰の痛みに対して鎮痛剤が処方され服用していた。肩の痛みではB整形外科医院にかかり、こちらでも鎮痛剤が処方されていた。患者さんは患部が異なるためそれぞれの箇所に効く痛み止めだと思い、2種類のNSAIDsを服用していた。 A医院の医師に連絡し、次回よりNSAIDs処方の中止するよう依頼した。

<薬剤師>40歳代・女性・調剤薬局勤務

<薬品名または薬効分類>
芍薬甘草湯
<ポリファーマシーが起こった原因>
DO処方

足の攣りに芍薬甘草湯を毎食前に継続服用していた患者さんが、肩こりで葛根湯も追加処方になった。事前のヒアリングで浮腫の症状が出ていたため、偽アルドステロン症の可能性がある旨、服用量について医師に相談した。芍薬甘草湯は一時中止し、葛根湯のみの服用にしたところ、浮腫症状は嘘のようになくなった。

<薬剤師>30歳代・女性・調剤薬局勤務

皮膚・アレルギー系疾患

<薬品名または薬効分類>
アレグラ
<ポリファーマシーが起こった原因>
処方カスケード

当病院に入院した患者さんが、A病院耳鼻科からアレロック、B病院皮膚科からアレグラがそれぞれ処方され、どちらも服用していた。主治医に確認し、アレグラが中止となった。

<薬剤師>30歳代・男性・病院勤務

<薬品名または薬効分類>
プレドニゾロン
<ポリファーマシーが起こった原因>
処方カスケード、DO処方

リウマチ症状にメトトレキサートやプレドニゾロンを長期服用中の患者さん。不眠や胃痛などの症状があり、ブロチゾラムやラベプラゾールなどが追加されていた。薬が増えて管理が大変になり、一包化も検討していた。 一方でリウマチの自覚症状はないため、メトトレキサートで疼痛コントロールができていると考え、医師へ相談。プレドニゾロンの削除後は、ブロチゾラムやラベプラゾールがなくとも睡眠状況、消化器症状が改善された。

<薬剤師>30歳代・女性・調剤薬局勤務

呼吸器系疾患

<薬品名または薬効分類>
鎮咳薬
<ポリファーマシーが起こった原因>
処方カスケード、お薬手帳を持参していなかった

降圧薬を使用中の患者さんに対し、別病院から高血圧に使用が禁忌とされている鎮咳薬が処方されていたため、疑義照会ののち鎮咳薬が変更になった。

<薬剤師>20歳代・男性・調剤薬局勤務

<薬品名または薬効分類>
去痰薬
<ポリファーマシーが起こった原因>
処方カスケード

風邪で受診した患者さんに去痰薬が処方となったが、別の科でも慢性気管支炎として同じ薬を服用していた。医師に確認し、去痰薬追加分は不要となった。

<薬剤師>20歳代・男性・病院勤務

消化器系疾患

<薬品名または薬効分類>
胃薬
<ポリファーマシーが起こった原因>
処方カスケード、患者さんの認知機能の低下

胃薬が3種類処方されていた患者さん。認知機能低下で食間の飲み忘れが多く、服薬できない→症状改善しない→さらに追加、と悪循環になっていた。本人からは胃腸について不調の訴えはなく、食欲もあったため、食間のアルロイドと毎食後のムコスタ中止を医師に提案した。1日1回のPPIだけになり、その後は胃薬症状に問題はない。

<薬剤師>50歳代・女性・調剤薬局勤務

<薬品名または薬効分類>
PPI
<ポリファーマシーが起こった原因>
患者さんの認知機能の低下、お薬手帳を持参していなかった

逆流性食道炎で長期間PPIを内服中であった患者さん。たまたま他院の処方を持参してもらった際に、別のPPIが処方されていた。お薬手帳にも記載がなく、薬名が違うため患者さんも気づかず、ずっと服用していた。すぐに疑義照会し、片方のPPIは削除となった。

<薬剤師>30歳代・男性・調剤薬局勤務

泌尿器系疾患

<薬品名または薬効分類>
利尿薬
<ポリファーマシーが起こった原因>
患者さんの認知機能の低下、患者さんの要望

利尿薬を3種(1種は頓用)服用していたが、患者さん本人が「効いていない」との訴えで継続されていた。実際に効果が出ているか不明の薬剤をカットし、1種を増量することで対応した。

<薬剤師>20歳代・男性・調剤薬局勤務

<薬品名または薬効分類>
ベタニス、プロノン
<ポリファーマシーが起こった原因>
処方カスケード、お薬手帳を複数持っていた

泌尿器系疾患と循環器系疾患について別々の薬局で調剤していたため、医師も薬剤師も併用には気付かなかったが、お薬手帳を2冊使用していることが偶然発覚! 急ぎ併用禁忌の旨を泌尿器科に連絡し、薬の変更となった。

<薬剤師>50歳代・女性・調剤薬局勤務

その他(鉄剤・ビタミン剤など)

<薬品名または薬効分類>
骨粗しょう症治療薬
<ポリファーマシーが起こった原因>
処方カスケード、お薬手帳を持参していなかった

エディロールを2つの医療機関から処方されていた85歳の患者さん。処方されたから飲まないといけないと思い込んでいた。お薬手帳は交付していたが片方の医療機関に見せ忘れたとのこと。両方の医療機関に連絡を取って事情を話し、片方の医療機関のみエディロールを削除した。 残薬もあることが判明し、家族と相談の上、自分が預かって残薬を整理・再分包して管理することになった。

<薬剤師>40歳代・男性・ドラッグストア(調剤併設)勤務

<薬品名または薬効分類>
鉄剤
<ポリファーマシーが起こった原因>
処方カスケード、DO処方

就寝前の点眼後に胃の不快感を訴える患者さんが、点眼薬の副作用を疑い、相談に来た。 お薬手帳にて、寝る前に鉄剤を服用している事を確認。担当医にその旨を伝えるよう指示したところ、鉄剤は削除され、胃の不快感は改善したとのこと。鉄剤は以前の病院から服用しており、現在の担当医は惰性で処方していたようで、血清鉄や貯蓄鉄はすでに十分だったらしい。

<薬剤師>30歳代・男性・調剤薬局勤務

3.対策に欠かせない薬剤師の気づきと患者さんとのコミュニケーション

成功例に共通するのは、処方箋やお薬手帳の記載内容、あるいは患者さんの様子やヒアリング内容から、薬剤師がポリファーマシーを疑う気づきの力です。ポリファーマシー対策には、普段から「もしかしたら?」の視点を常に心の隅に置き、処方箋と服薬状況、患者さんの様子を照らし合わせていくことが求められます。日々の「当たり前」に忠実に向き合いつつも、常にその当たり前を疑う視点もまた、薬剤師にとっては欠かせないものだと言えるでしょう。

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