4 どうなる?高齢患者の服薬アドヒアランス不良
2016.09.30
服薬に関する考え方が「コンプライアンス」から「アドヒアランス」へと移行し、患者に対して治療への主体性や積極性のある参加が求められるようになりました。
しかし、投薬量の多い高齢患者が自ら服薬管理をして、アドヒアランスを保つことは非常に難しいでしょう。また、メディアなどで副作用の危険性が取りざたされることも多く、過度に高齢患者の不安を煽っているようにも見受けられます。
このような状況下で、薬剤師は高齢患者の服薬アドヒアランス不良に対し、どのような取り組みを行っているのでしょうか。リクナビ薬剤師会員の皆さんに伺いました。
(2016年9月3日~9月11日実施・有効回答数n=547)
調査対象:65歳以上高齢患者の服薬指導経験のある薬剤師
高齢患者の5~7割程度が服薬指導内容を“理解”
そのうち7~9割が“実行”にまで至っていると推測
服薬アドヒアランスを大きな2つのステップ、服薬指導内容の“理解”と、それに基づく服薬の“実行”に分解し、それぞれどの程度の割合の患者がそのステップをクリアしているのかを調査しました。
アンケート結果によると、約半数が、感覚値として「高齢患者の50~69%は説明の内容を理解できていると思う」と回答。次いで、「高齢患者の70~89%は説明の内容を理解できていると思う」との声が多い結果となりました。また、理解した上で実行を遵守しているかどうかについては、「70~89%の患者は実行に移してくれると思う」が約42%と最多でした。
つまり、高齢患者では、服薬指導で理解した内容を“実行”することよりも、服薬指導の内容そのものを“理解”することのハードルが高く、その段階でつまずく患者が多いことがわかりました。この結果から、服薬アドヒアランス改善に向けて、薬剤師がまず注力すべきは高齢患者の“理解”を促すことであるといえるのではないでしょうか。
服薬アドヒアランス不良の最大要因は「服薬管理能力の低下」
その服薬管理を担うのは誰か?
高齢患者が服薬アドヒアランス不良に陥る要因は、最も影響度の大きい要因として「認知能力が低下しており、服薬管理能力が落ちている」ことが選ばれました。認知能力が低下している場合、高齢患者の服薬管理は周囲の家族が大きな役割を果たすことになりますが、高齢化社会の進む現在では「独居などで周囲のサポートが不足している」ことも多く、服薬アドヒアランスを大きく低下させる要因となります。
厚生労働省の調査によると、年々一人暮らし高齢者数は増加傾向にあり、2020年には6,679千人にも及ぶと言われています。一人暮らし高齢者の服薬アドヒアランス不良は命の危険を脅かす可能性も高く、社会全体の深刻な課題となっています。
また、患者独自のルールで服薬管理をしたり、服薬回数の変更や中止をしたりすることが多く見受けられるようです。原因としては、疾患の自覚症状がないことや薬の効果の実感が得られないことが大きく、また、そもそも服薬が面倒であるといったことなどからも服薬アドヒアランス不良に至るとの意見が挙がりました。
こうしたなかで、薬剤師は高齢患者の服薬指導においてどのようなことを確認しているのでしょうか。
アンケート結果では、特に注視している確認情報として「複数診療科、複数医療機関の受診・投薬の有無」が圧倒的に多く、回答者の8割以上が選択しました。高齢になるにつれて患者の有病率は高まり、複数の疾患を持っている傾向が高くなります。そのため多剤併用になりやすく、薬の相互作用による影響を慎重に鑑みる必要性が出てくるようです。
その次に挙げられたのが、「服薬管理者(患者自身か、家族か等)」です。やはり、高齢者の服薬管理能力を補う存在の有無は、薬剤師が服薬指導の方針を決めるにあたって非常に重要な情報であることがわかります。
服薬アドヒアランス向上のために薬剤師ができること
高齢患者の場合、日常的に接する家族などのサポートは不可欠ですが、薬剤師は薬の専門家として、医師と患者やその家族をつなぐ大事なパイプ役でもあります。薬剤師はどのようなかたちでその一翼を担うことができるでしょうか。皆さんからいただいたご意見をご紹介します。
まず、薬剤師が高齢患者の“理解”の支援をすることで、服薬アドヒアランス不良は多いに解消へと近づきます。そもそもなぜ薬を飲む必要があるのか、飲まなければどんなリスクがあるのか、服薬の意義をきちんと説明し、納得してもらうことが大切です。
- 目先の治療ではなく、この先の重大疾患への予防にもなる事を説明すれば、アドヒアランスも良くなると思う。(29歳以下・男性・調剤薬局)
- わかりやすい言葉で説明する。専門用語をできるだけ使わない。書き言葉ではなく話し言葉で(受診→先生に診てもらうなど)(40歳代・女性・調剤併設型ドラッグストア)
- 医師が薬を処方する理由をきちんと患者に説明し、理解してもらう。現実的には難しいので、入院患者であれば医師に確認したりカルテをみたりして薬剤師が服薬意義を本人や家族に説明し、理解してもらうことができる可能性が高くなると思う。(30歳代・男性・一般病院)
- 在宅でなく外来でも自宅にある飲み残しなど、残薬を全て見て、服薬を確認する必要があると思う。薬局のカウンターだけでの投薬には限界を感じてます。(50歳代・女性・現在休職中)
- 文字(書面)と音声(言葉)のダブルパンチは必須だと思います。(29歳以下・女性・門前薬局)
- 服薬意義を本人に分かるよう毎回説明し理解していただくことが、遠回りのようで確実と考えています。(60歳以上・女性・調剤薬局)
そして、理解を支援しても改善しない場合は、患者の生活環境や考え方・嗜好性などを聞き出し、新たな改善策を練る必要があります。そのためには、患者がいつでも本音で薬剤師と向き合えるような、良好な関係性が築けていることが重要です。患者は医師の言葉に敏感で重く受け止める傾向にある一方、なかなか本音を言い出せないことや、服薬できていないことを伝えない場合もしばしばあるようです。時間をかけて話を聞く、丁寧に何度も説明するなど、高齢患者のペースに合わせたコミュニケーションを心掛けましょう。
- ちょっと困ってるくらいだと相談されないので普段からコミュニケーションをよく取る必要がある。勇気を出して聞いてきてくださったときに答えてあげられるように検査値などは十分勉強しておく必要がある。また、在宅の特集のページを読んでおくと普段の服薬指導でも役立つことも多い。(30歳代・女性・企業内診療所)
- 医師の言うとおりに長年服用し続けている薬剤が多岐に渡ることが非常に多い。嚥下困難などは患者から医師に伝えられていないこともあるため、その点をフォローする必要があるだろう。(29歳以下・男性・調剤併設型ドラッグストア)
- 病気だけでなく、生活リズムや環境も聴き取り信頼関係を築くことが大切。(30歳代・女性・門前薬局)
- 高齢患者にたいしての尊敬、配慮。信頼感を得ること。その上での、工夫。提案。言葉だけではだめ。(50歳代・女性・調剤薬局)
- 時間の取れる時には雑談もして、打ち解けて行くこと。難しい専門用語を使わない。笑顔。一緒に考えていこうという姿勢。(50歳代・女性・門前薬局)
- 自分たちよりも年下の者に、Dr以外の人間からあれこれ言われたくないというスタンスの方がいらっしゃいます。そういう時は、できるだけ指導されているという雰囲気を作らず、さりげなく聞き出し、なるべく壁を作らないようにお話しするように工夫しています。(40歳代・女性・調剤薬局)
- 生活リズムやこだわりは変えられないので、実情をよく聞き出して服薬を無理なく入れ込めるよう考える。(40歳代・女性・門前薬局)
- 高齢者の口からどう飲んでいるかを聞くこと。(服薬説明と実際との行き違いを避けるため)(40歳代・女性・調剤併設型ドラッグストア)
次に、高齢患者の服薬の“実行”と継続のためには何ができるでしょうか。
服薬アドヒアランスの低下をもたらす大きな要因として、服薬の難しさや煩わしさが挙げられます。そのため、服薬の行為そのものをより少なく簡単にすると、患者の服薬に対する物理的・心理的な負担が軽減されます。一包化をする以外にも、飲みにくい剤形を避ける、不必要な薬を減らす、服薬のタイミングをなるべくそろえるなどの工夫が考えられます。
- 用法色分けの一包化。日付入り。人によっては服用カレンダー持参しこちらでセットする。(30歳代・女性・調剤薬局)
- 配合剤、徐放剤等を利用して、出来るだけ飲む回数、錠数を減らす。また、医師に働きかけ、出来れば、一包化を進める。(50歳代・女性・調剤薬局)
- 高齢患者は多剤処方されている方が多く、服用方法が複雑になりがちであるため、症状改善がみられるなどして不要と思われる薬剤は中止するよう提案する。(30歳代・女性・一般病院)
- 生活の中で無理なく服用できるように一緒に考えて服薬方法や用法、剤形など確認しながら選択していくこと。更にそれで服薬できているのか確認するPDCAを繰り返すこと。(40歳代・女性・一般病院)
- 何故服用するのか、またとにかく飲んでる薬の種類を把握させること。もし飲みにくいならば、剤形変更、用法変更など、改善出来ることは多々あります。薬を服用する習慣が一度つけば、改善される例は多いです。(40歳代・女性・門前薬局)
今後求められる、薬局のカウンターを越えた薬剤師の活躍
これまで高齢患者の服薬アドヒアランスの要因と薬剤師の役割についてみてきましたが、薬剤師が薬局のカウンターでできることにも、患者本人が努力してできることにも限りがあります。そのため、患者の家族や医療従事者と上手く連携することが肝心です。患者本人が他者の協力を拒否する場合もありますが、そんな際には、薬剤師が患者の“人に頼るちょっとの勇気”を後押しする存在であればと思います。
現在の日本では、未病という考え方は根付いておらず、症状が顕著に表れてから治療すればいいと捉えている患者が多いかもしれません。しかしながら、今後医療費の自己負担が増えることが予測されるなかでは、大きな病気になってからでは遅く、自分の身体や病気の治療方針などについて、自ら責任を持って管理することは不可欠でありスタンダードとなるのではないでしょうか。
ただ、その未来を患者のみで実現することは能わず、医療従事者の役割意識が必要です。特に、高齢患者の服薬に対する薬剤師の介在価値は大きく、薬剤師はこれからも治療の意味、投薬の意味を訴え続けることになるでしょう。高齢患者の増える日本では、薬局のカウンターを越えた薬剤師のさらなる活躍が期待されます。
高齢患者への服薬指導に役立つ実例も多くお寄せいただきました。次回以降で紹介させていただきます。