2 薬剤師業務への機械・IT技術導入の波はいま…?
2016.05.27
昨今、業界問わず押し寄せる機械・IT技術導入の波。人工知能やウェアラブルコンピューターの開発など、機械やIT技術と人間の関係が変わりつつあるとさえ言われています。今後は、人間の介在が必要でない局面はますます増えていくでしょう。
そう遠くはない未来に向けて、私たちは何ができるのでしょうか。リクナビ薬剤師会員のみなさんに聞いてみました。
(2016年4月25日~5月9日実施・有効回答数n=658)
- 1.薬剤師業務の機械・IT技術導入の実態とは?
- 2.機械化・IT化が進むことによるメリット・デメリット
- 3.患者さんに選ばれる薬剤師はここが違う
- 4.機械やIT技術では代替できない“あなたの付加価値”とは?
薬剤師の働く職場の約半数で、薬剤師業務のIT化は進んでいる
アンケート結果によると、現在就業する薬剤師の職場の約半数において、薬剤師業務を代替する機械やIT技術が導入されているという結果が明らかになりました。グラフにはありませんが、職場別に見てみると、10店舗以内のチェーン調剤薬局では導入が4割程度に留まったものの、500店舗以上の大規模チェーンでは約7割にものぼりました。病院の病床規模においても同様の相関関係が見られ、経営規模が大きくなるにつれて、機械やIT技術の導入が進んでいる傾向があることがわかります。
また、具体的にどのような業務が機械やIT技術によって代替されているかを尋ねたところ、調剤業務の一包化や分包化における機械化・IT化を挙げる声が最も多く、次いで在庫発注業務、薬歴管理業務などが挙げられました。
厚生労働省の提示する「患者のための薬局ビジョン」では、“ICTを活用した服薬情報の一元的・継続的把握”が掲げられており、そのなかで、携帯電話・スマートフォンなどを利用した電子版お薬手帳の普及による、患者の服薬歴などの一元的・継続的な把握を目指すことが描かれています。実際に、患者が利用するスマートフォンアプリと職場のシステムにおける情報連携が行われているかどうかについて聞いてみると、「連携している」と回答したのは、機械化・IT化の進む職場で働く薬剤師のうち、現状ではわずか17.0%。具体的なアプリ名としては、日本薬剤師会の「日薬eお薬手帳」や日本調剤の提供する「お薬手帳プラス」などの名前が挙げられていました。
機械化・IT化推進による大きなメリットは「医療事故の低減」
機械やIT技術は使いこなすべきもの、職場選びを左右することも
職場への機械やIT技術の導入におけるメリットについて聞いてみると、意見の多かったものとして、
- 調剤過誤や薬歴の記入漏れなど、医療事故が減ること
- 患者の待ち時間が短縮されること
などが挙げられた一方、デメリットとしては
- 導入コストがかかること
- 故障やシステムダウン時に薬局(薬剤部)が機能しなくなること
が多く挙げられました。
昨年に入り、複数の薬局チェーンでの薬剤服用歴の記入漏れが立て続けにメディアで取り上げられるようになり、早急な解決が求められてきました。そんななか、多くの患者にミスなく効率的にサービスを提供していくために、より一層機械化・IT化が欠かせなくなっていくと言えそうです。
導入コストなどのデメリットはあるものの、機械やIT技術を使いこなすことを重要視する薬剤師は多く、約9割の薬剤師は「必要である」と答えています。そして、職場選びにおける機械やIT技術の重要性についても、「職場選びを左右する重要なポイントである」と回答した薬剤師は23.9%ですが、「気になるが、職場選びを左右するほどではない」も加えると、全体の6割を超えることがわかりました。
入職の際に機械化・IT化を考慮する理由としては、機械やIT技術の導入そのものについてのみならず、そこから伺い知ることのできる経営者のスタンスを確認する側面もあるとの声も散見されました。
具体的には、「時代の流れに対応して、変化しようとしているかみたい」(40歳代女性・調剤薬局勤務)、「電子お薬手帳の普及についていける会社かどうかを判断する基準となる」(20歳代男性・調剤薬局勤務)、「電子薬歴は必須。調剤業務等も導入されていたら経営者が現場の業務の理解とコスト意識が高いと感じます」(30歳代男性・調剤薬局勤務)など、働く環境の将来性も見据えた職場選びには欠かせない観点であると言えそうです。
患者さんに選ばれる薬剤師はここが違う
具体的には、必要とされ選ばれる薬剤師とはどんな薬剤師なのでしょうか。みなさんに、自分自身の業務のなかで「独自の視点で提供したい“付加価値”」として、患者さんに喜ばれたエピソードについて伺ってみました。
薬の副作用や検査値結果などの説明だけでなく、医師には言えない相談ごとを受けたり、疾病に合わせたおすすめの病院やドクターを紹介したりするなど、患者さんへのさまざまな気遣いを大事にする声が寄せられました。
- 患者さんからいただいた検査値を元に、ご自分の腎機能がどのくらいなのかを計算し、印刷してお渡ししたら、非常に喜んでくださいました。腎機能が少し低下した患者さんだったので、今飲んでいる薬を全て調べ、「今の量は大丈夫な量ですよ」ということをお伝えしたら、安心してくれました。(30歳代男性・調剤薬局勤務)
- 医師の機嫌を損ねないようにすることばかりにとらわれている患者さんがいた。効かない薬、要らない薬があっても医師に伝えることが出来ず、高齢になって薬の管理が出来ず、パニックに陥っていた。医師との仲立ちをして、自分の意思をしっかりと伝えることによって医師が的確な診療が出来ることを理解してもらい、医師との関係も上手く行くようになった。それ以来、必ず指名で私の投薬を受けてくれる。(50歳代女性・調剤薬局勤務)
- 病院に行って婦人科の精密検査を受けるように言われて落ち込んでいた患者さんに、婦人科の検査が有名なドクターを紹介したら、すごく喜んでいただきました。オペも成功されて、退院したらすぐに報告に来てくださいました。(40歳代女性・調剤薬局勤務)
- 飲み忘れが多い老人に朝電話で飲めているか確認したところ、気にかけてもらえて助かるとお言葉をいただきました。(30歳代男性・調剤薬局勤務)
- ペットの犬の病気が悪化し夜間の睡眠を犠牲にして看病していたご高齢の患者さん。来局のたびにお話を聞いていたので、ペットが死んで不眠になり精神的に不安定になったときも、スムーズに状態を聞くことができた。 精神的に落ち着くまでエチゾラムの服薬調整のアドバイスなどで寄り添うことができた。(20歳代女性・離職中)
- 看護されている家族の方の苦労や不満、心配ごとなどを傾聴することで、気分が楽になったと明るい表情でお帰りになるようなことが結構ある。(50歳代女性・調剤併設型ドラッグストア勤務)
- 抗不安薬を服用している患者さんに、薬剤師というより人として接しているうちに、その不安の根っこがわかり、その根っこの解消に薬局スタッフ全員で関与し薬剤の減量につながった。(50歳代男性・病院勤務)
- 独特のファッションをしてくる患者のコーディネートの感想を、毎回お薬手帳に書き込んだ。(30歳代女性・調剤薬局勤務)
近い将来変わるであろう薬剤師業務の在り方
機械やIT技術では代替できない「人と深く関わり、共に働く」こと
今後、機械やIT技術の導入が進むなかで「最低限の場面のみ薬剤師が介在するようになる」と、業務における役割の変化を予期する薬剤師は少なくありません。
そんななかで、薬剤師にしか提供することのできない“付加価値”とは何なのか。それぞれが考える『独自の視点で提供したい患者さんへの“付加価値”』として最も多かった意見は、「患者さんの本音をじっくりヒアリングし、不安を払しょくすること」であり、約半数の薬剤師がその回答を選択しました。次いで、「他職種との連携強化による、多角的な視点を持った服薬指導」、「患者さんのプライベートや生活環境まで把握した投薬の提案」と続きます。
人と本音で向き合い、他業種と密に連携を取ること。人との深い関わりを求め、同時に、求められていると感じる薬剤師が増えてきているようです。それは、機械化・IT化が進むことによる反動であるとも言えるかもしれません。
今回のアンケート結果より、経営規模による差はあるものの、薬剤師業務の機械化・IT化の波は着実に押し寄せてきていると言えそうです。2016年度の診療報酬改定にも後押しされる形となり、波及はより加速しています。
今後は、機械やIT技術を駆使して仕事をするのはあたりまえ、そんな状態がスタンダードと見なされる時代が来るかもしれません。その結果、薬剤師が提供する医療サービスへの患者の期待値は上がることでしょう。国の掲げる医療費削減のためには効率化が必要であり、そのためには医療サービスとしての質の向上を促進させる競争が求められるのです。
より患者が求めることを把握し、そのニーズに対応できる柔軟さをもつ薬剤師であること。自分自身の持ち味を活かし、強みを磨き続ける努力ができること。選ばれる薬剤師のみが残り、淘汰されていくであろう時代において、あなただからこそ提供できる価値とは何か、一度立ち止まって考えてはいかがでしょうか。