13 賛成?反対?避けては通れない医療費削減と薬価の問題について、みんなはどう思ってる?
2018.07.23
増え続ける日本の医療費を削減するために、高額な薬剤の利用抑制や減額に関する議論が盛んになっています。また、2021年度からは薬価が毎年改定される計画となっており、医療費削減と薬価の関係は切っても切り離せません。
薬剤師は薬剤に最も身近な存在と言えます。そこで今回は、リクナビ薬剤師会員の皆さんに、薬剤費をめぐる問題について率直な意見をお聞きしました。賛成?それとも反対?医療費削減のために他にできることはある?さまざまな意見に耳を傾けてみましょう。
(2018年5月28日~6月3日実施・有効回答数n=1,048)
1.高額な医薬品を延命目的に利用するかどうか?
賛成・反対はほぼ半々の結果
2017年7月の中央社会保険医療協議会において、薬価の費用対効果に関する調査が検討されました。しかし、「命に値段をつけるものである」など、調査の実施自体に反対の意見も強く、議論は宙に浮いたままです。
オプジーボに代表される非常に高額な医薬品。延命を目的として使用する際の費用が公的保険から支払われる是非について、今回のアンケートでは下記のように意見が分かれました。
Q. オプジーボ点滴静注を肺がん治療に使用する場合、体重60kgの患者では、薬剤費は年間約3,040万円です。
また、この患者の自己負担分は年間約70万円で、差額は公的保険から支払われます。
このように、公的保険負担分が高額となる医薬品を使用することに対し、どのように考えますか。下記から1つ、選んでください。(n=1,048)
患者の年齢などの条件付きを含め、延命目的の使用に賛成の意見が47.4%、寛解・根治が望める場合にのみ使用すべきだとの反対意見が51.4%。賛成と反対がほぼ半数ずつの結果となりました。
延命目的の使用に賛成の理由としては、命に値段は付けられないから、実体験や自分や家族の問題として考えたときに、延命にも利用できる方が良いと思ったから、といった意見が多く挙げられました。
- ひとの命に代わるものはなく、なんらかの意味があるなら使用すべき。 薬剤費は他のことで削減できるはずだと思う。(調剤薬局勤務)
- 命の重さは年齢には関係ない。 本人が苦しまない前提で1日でも延命に努力するのが医療ではないのだろうか。 医療費に関する懸念はあると思うが、削減できるところは他にあると思う。(調剤薬局勤務)
- 自分の家族が患者だった場合を想定すると、使用したいと思ってしまうから。線引きも難しいと思う。(調剤薬局勤務)
- 立場により答えは変わる。 医療費だけを考えるなら延命には使わない方がいいと思うが、家族としてなら延命でも使いたい。(病院・クリニック勤務)
また、寛解・根治が望める場合にのみ使用すべきと考える理由としては、医療費削減を考えたらやむを得ないから、副作用のリスクなどを考えた場合、有用とは限らないから、といった意見が挙げられました。
- 基本的には命の前では万人は平等であるべきだと思いますが、 公的保険の財源を考えると無条件で高額医薬品を使用することは今後できないと思います。(病院・クリニック勤務)
- 高額の公金が使われるため、命に金額はつけられないとは思うが、やはり何らかの制限や条件があるべきだと思う。 これが数万円単位ならば何の迷いもないのですが…(調剤薬局勤務)
- 費用対効果を重視したい。社会保障費が切迫する中、医療費が適切に使われるように、本当に使う必要があるのかよく吟味したい。(調剤薬局勤務)
- 医師や薬剤師が利益と副作用を考え使用を検討し、使用が妥当だと判断された際は患者に説明し、患者が薬剤の使用を望めば使用すべき。(病院・クリニック勤務)
2.薬価の減額には約7割が賛成
ただし毎年の薬価改定には6割強が反対
国の医療費を削減するために薬価を減額することに対しては、67.7%が賛成しています。高騰する医療費を削減するためにはやむを得ないとする一方で、製薬会社の開発費・開発意欲へのマイナス影響を心配する声も多く見受けられました。
Q. 国民医療費削減のために、薬価を減額することに対してどのように思いますか。
(n=1,048)
一方で、2021年度からの導入が計画されている毎年の薬価改定については反対が6割強と、慎重な意見が目立ちました。
- 私の職場では、薬価改定があるときは、在庫は最低限しか置けず、結果、患者に薬の不足という迷惑をかけることになる。(休職中)
- 大手チェーンは在庫をある程度捌けるかもしれないが、個人経営の薬局は毎年相当の損失を出す。(調剤薬局勤務)
- 3月がめちゃめちゃ忙しくなるのでやめてほしいです。 薬価が下がる医薬品は、発注をギリギリまでしぼり、その結果薬不足が発生して患者に迷惑がかかります。 薬価が上がる場合は、3月までに多めに発注しないといけないので これらの仕分け業務がものすごく大変です。(調剤薬局勤務)
- 患者に説明するのがすごく大変。同じ薬なのに何でこんなに変わるんだっていつも言われる。(病院・クリニック勤務)
- 革新的新薬には、それ相応の対価を支払われなければ、研究開発は進まない。また日本の市場のうまさが薄れすぎれば、内資外資問わず市場撤退が行われるから。 革新的でないもの、合剤等は毎年でもいいと思う。(病院・クリニック勤務)
Q. 2021年度からは、毎年の薬価改定が行われる計画ですが、このことに対してどのように思いますか。
(n=1,048)
3.9割超が制度改定の影響を受けると回答
マイナス影響を心配する声が多数
薬価に関するさまざまな制度の変更・新設について、92.2%が薬剤師の仕事に何らかの影響があると答えています。その多くは、給与ダウン、事務作業の増加、利益率の低下、働き方の変化など、マイナス影響を心配するものでした。
- 6年制になりながらも、給与は下がり、仕事は増える。(調剤薬局勤務)
- 薬局の利益が減ることで、そこで勤務する人達の収入が減ったり、人員に余裕がないことで勤務者1人あたりの仕事量が増えたりなど、現場で働く人達の負担が大きくなると思う。 最終的に患者さんへの対応の質が下がることに繋がると感じる。(調剤薬局勤務)
- 薬局経営、とくに個人薬局の経営が厳しくなる。 本来の厚生省が求める地域密着型の薬局が、どんどん経営不振におちいる方向にあると思う。(調剤薬局勤務)
- 企業、患者から選ばれるような薬剤師でなければ、たとえ資格があろうとも、働き続けるのは難しくなってくると思う。(調剤薬局勤務)
- 年々、利益率が低下し仕事量は増加していく。この負のスパイラルで薬剤師の仕事に魅力がなくなっていく。(調剤薬局勤務)
Q. 薬価のマイナス改定や調剤基本点数の減算など、薬価などに関する、さまざまな制度の変更・新設が行われていますが、これらは、薬剤師が働くうえで影響があると思いますか。
(n=1,048)
4.医療費削減=薬価の減額だけではない
今できること、すべきこととは?
薬価の減額にまつわる制度改定・新設は、医療費削減のために必要であると理解しつつも、薬剤師としての仕事や職場、業界へのマイナス影響を懸念する全体傾向がみられた今回の調査。
医療費削減の問題は、薬価の減額だけで解決されるものではない、という国や制度、医師や患者への切実で厳しい意見も多くありました。
薬剤業界に加え、国と医科・歯科、患者と全ての関係者が深く状況を理解し合い、応分の負担をし、医療費削減のための効果的な施策が早期に実現することを願ってやみません。
- 医師も医療費削減を考えてほしい。処方薬が無駄に多い。(調剤薬局勤務)
- 風邪などの軽度の疾病の自己負担の割合を上げて、セルフメディケーションを推進する。 後発があるのに先発希望の場合は差額を自己負担するべき。(調剤薬局勤務)
- シップやうがい薬のOTC化は良いと思う。 医療費削減ではないが、高齢者が医療費をある程度負担することも今後必要だと思う。(調剤薬局勤務)
- 弱い立場、政治力が無いところばかりに負担を強いられている気がする。そもそも厚労省の長年の政策の失敗が大きな原因なのに、その点を反省すべきだと思う。将来的にこのまま少子化が進んでしまえば医療費の削減くらいではすまない。少子化対策などにももっと思い切った政策が必要だと思う。(調剤薬局勤務)
- ポリファーマシーや残薬の問題について、積極的な薬剤師の介入を促す施策が必要と思う。(調剤薬局勤務)
- 無料だから、1割負担だからと、医療費が高額になっている人が多い。そこをもっときちんと統制すべきだ。(調剤薬局勤務)
- どんどん小児医療の無償化が進んでいるが、それによる不必要な受診が増えていると感じる。まだ薬が残っているのに次々とかかったり、必要ないが無料のためとりあえずもらっていく、という人も。4歳以上は1割もしくは300円などでいいので支払をさせたほうが医療費削減になると思う。(病院・クリニック勤務)
- 薬局や薬剤費ばかりが標的にされている気がする。 他にも見直すところがあるのではないか。(調剤薬局勤務)
- 調剤報酬はそのほとんどが医薬品代であり、人件費に充てられる割合は医科や歯科に比べて非常に低い。それにも関わらず調剤報酬を減額する方向に行くことは納得いかない。医科や歯科についても身を切る努力をして保険財政の破綻を回避する手立てを考えてほしい。(調剤薬局勤務)